腹黒御曹司の一途な求婚
(つ、つかれたぁ……)

 もうこの通路、三回くらい通った気がする。
 初日だからと気合いを入れて、いつもは履かない七センチヒールを履いてきてしまったので、足の裏がジンジンと痺れて痛い。
 
 迷子ではないけれども、行き当たりばったりであちこち巡っていた結果、ホテルの隅から隅まで何度も歩き回る羽目になってしまった。前にいたホテルより規模が断然大きいことをすっかり忘れていたので……。
 
 一刻も早く椅子に座って、コーヒーが飲みたい。それより早くこの靴を脱ぎたい。
 心の中で嘆きながら、最後の挨拶先となる創作フレンチレストラン『プレジール』へ向かう。

 散々寄り道をしまくったので、ランチタイムはもうとっくに終了している。
 スタッフの皆も手隙になっていて、挨拶もゆっくりできたのだから、まあ、あの寄り道は正解だったのだと思う。足はめちゃくちゃ痛いけど。
 
 疲れをおくびにも出さないよう笑顔を貼り付けながら、バックヤードも案内してくれるという『プレジール』のサブチーフの小芝さんの後をついていく。
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