腹黒御曹司の一途な求婚
 立ち話もなんだからと、久高くんを先頭に再びリビングへと戻った。

「連絡もなしに来るなよ」
「連絡はしたわよ?でもあなたから返事がなかったんだもの。だからたまたま近くを通ったついでに、ちょっと寄ってみようと思って。ごめんなさいね、お邪魔しちゃって」

 最後の言葉だけは私に向けて、芙由子さんはキッチンでコーヒーを淹れる久高くんに悪びれる様子なく言い訳をしていた。

(顔は似てないけど……性格はお母様譲りよね……)
 
 芙由子さんの斜め向かいの席に座りながら、なんとはなしにそう思った。
 なんというか……このしれっとしてる感じが、すごくよく似ている。

 すると不意に、キッチンにいる久高くんへ話しかけていた芙由子さんの視線が、私の方を向いた。
 何やら意味ありげに含み笑いを浮かべていて、私の背筋に緊張が走る。

「蒼士がね。この間突然、好きな人がいるからもうお見合いは持ってこないでほしいって言ってきたのよ。どんなお嬢さんなのかしらって気になって仕方なくて、今日も問い詰めにきたんだけど……萌黄さんのことだったのねぇ」

(ん……?)
 
 芙由子さんはニコニコしている。まるで私の存在を心から歓迎しているような……。

「本当によかったわぁ。この子、今まであんまりいいご縁に恵まれなくてね。ついお節介を焼いちゃってたのよ。これからは萌黄さんがいるからもう安心。不肖の息子ですが、これからもどうぞよろしくお願いします」
「え、ええっ?!」

 改まった態度で芙由子さんが頭を下げるものだから、つい慌てて立ち上がってしまった。
 顔を上げた芙由子さんが、そんな私を見て不思議そうに目を瞬かせている。
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