腹黒御曹司の一途な求婚
「仲良しさんなのね」

 ころころと鈴の鳴るような笑い声が聞こえてきて、私は我に返った。
 お母様の前で見つめ合うなんてとんでもない。パッと久高くんから視線を逸らして芙由子さんの方へと向き直る。頬は依然として熱を持ったままだ。
 
 芙由子さんはそんな私を見て、目を細めて笑っていた。

「もしかしてお家のことで私が反対すると思っていた?」

 少し迷って、躊躇いがちに頷く。
 芙由子さん微笑みは崩さず、ふっと息を漏らした。

「だからあんなに緊張してらしたのね。大丈夫よ、主人も私も蒼士の意思を尊重するつもりだから。この子が選んだ相手なら、どなたでも歓迎するつもりでいるの。だって、長い人生を共にする相手だもの、自分で選んだ方がいいに決まってるでしょう?だから萌黄さんさえよければ、これからも蒼士をよろしくね」

 柔和な微笑みを湛える芙由子さんは母の顔をしている。
 息子の幸せを願う慈愛の表情。そこにふと、自分の母の面影を見出した。
 刹那、風が舞ったように記憶が溢れてきて、胸がきつく締め付けられるようだった。

(私のお母さんも、こんな風に思ってくれていたのかな……)

 きっと、そうだったと思う。
 
 無性に母に会いたくなって、視界が潤む。
 目元にうっすら滲み出る涙を瞬きで散らすと、私はぎこちない笑顔を作って頷いた。
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