腹黒御曹司の一途な求婚
 良い話を待ちきれない様子の久高くんに追い立てられ、注文した料理がテーブルに来てから十分も経たないうちに私たちはお店を出た。
 差し伸べられた手を取ることに、もう躊躇いはない。

 繋いだ手から緊張が伝染してしまいそうだった。
 そわそわと落ち着かない気持ちでエレベーターホールまで歩いていたのだけれど……途中すれ違う人影が足を止めたのを視界の端で捉えた。

「あなた……」

 声をかけられ、振り返る。
 刹那、内臓がひっくり返るような心地に見舞われた。

「……萌黄さんね。なぜここにいるの?」

 こちらを容赦なく抉ろうとする、刺々しい声。
床に縫い止められてしまったかのように、足が動かなくなった。
 心臓は早鐘を打ち、息をするのも忘れそうになる。

 驚きで目を見開いていると、目の前の女性――父の後妻である貴子さんが、尊大にヒールを鳴らしながらこちらへ歩み寄ってきた。

「まさか帰ってきたの?"お父さん"にお小遣いでももらいにきた?」
「あ……」

 侮蔑の眼差しを向けられ、体がすくみ上がって喉を震わすことすらできない。
 金縛りにあったかのように硬直して動けなくなっていると、不意に肩を抱き寄せられた。
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