【ピュアBL】心が読める推しとアイドルユニットを組むモノガタリ

5.プライベートを撮る

 夜、リビングでお互いそれぞれ好きなことをしてまったりしている時間、白桃大知に訊いてみた。

「プライベート、どんなの撮りたいなとかある?」
「どんなの……」
『プライベート……遥斗くんの魅力を最大限に引き出さなければ……でもどうやって? あの、一番いい顔の角度を撮りたい……でもやってよなんて図々しくて言えないし』

 俺のいい角度とは?
 気にはなるが、心の声は聞こえていないことになってるから、今聞くタイミングではない。

 表ではたったひと言。だけど、白桃大知の心の中は今日もにぎやかだ。

「とりあえず、お腹すいたな」
「作ります! オムライスと野菜スープでいいですか?」
「あぁ、ありがとう」

『とびっきりの、フワフワタマゴのオムライスを食べさせたい』

 冷蔵庫に向かう白桃大知の背中をみると、俺は自然に笑みがこぼれた。

 ずっと目で追い、キッチンで料理をする白桃大知を眺める。そしてこっそりと白桃大知の顔が見える位置に移動し、スマホでその姿の動画を撮った。真剣に料理をしていて撮られていることに気がついていない。録画の停止ボタンを押したあと、白桃大知に質問した。

「なぁ、どうして俺のファンになったんだ?」
「わぁ、いつの間に横にいたんですか?」

 白桃大知は玉ねぎを切っていた手を止め、こっちを見た。

「驚かして、ごめん」
「ファンになったのは、誰よりも輝いていたんで……」
「そっか」
「そうです」

 恋する乙女みたいな表情で照れだした白桃大知は再び玉ねぎを切る。

 話は途切れる。この流れで何かもっと話したいなって気持ちはあった。でも白桃大知とはまだそんなに仲良いわけではないし、深い話をすることもない。今後の仕事については話さないとなとは思うけれども。

 とりあえずテレビをつけ、ソファに座って待っていると、白桃大知は料理を完成させた。リビングの白いローテーブルに置かれたオムライスとカラフルな彩りの野菜スープ。オムライスは白桃大知が心の中で呟いていたとおりにふわふわだった。

「すごいな、よくこんなにふわふわに作れるな? こういうの作れるのってすごい」
「あ、ありがとうございます」

 オムライスをひとくち頬張る。

「うん、この半熟な感じがいいな! 美味い」

『ふわふわオムライス、遥斗くんに褒められた。嬉しい』

 心の声のテンション高めだな。
 心の声に反応してふっと笑う俺。

 心の声が聞こえるせいで、もしも彼女が出来ても絶対に同棲したくはなかった。家族と暮らしていた時も、一緒にいれば聞きたくない時も心の声が聞こえてくる。

誰かといれば、悪口も勝手に頭の中に流れてくるから正直しんどくて、疲れる。けれど、白桃大知のように、常に心の中もずっと俺に崇拝していて、悪口が一切ない内容が聞こえると、居心地が良い。

 一緒に過ごし始めてから、白桃大知のお陰で何度も笑っている。

「あ、これ!」

 白桃大知は突然俺を見ながら叫んだ。

「どうした?」
「あの、食べる姿が……」

『恰好良いな。食べる姿ってメディア通してしか見れなかったけれど、リアルで見られるのが貴重すぎる。撮りたい、これだ!』

 そういうことか。白桃大知はスマホで撮る準備を始めたから動きを止めて待ってみた。準備し終わったらまたひとくちオムライスを口に入れた。そしてそのあとはファンたちが喜ぶような可愛めな顔をして、画面に向かって手を振り「美味しい、ありがとう」と口パクした。

「あぁ、いい」

 スマホで俺の食べる姿を動画に撮りながら、画面の中にいる俺を見て呟く白桃大知。終わりだと思っていたのにまだしばらく撮り続ける。俺ばかり撮られていたけど……。

「白桃は、映らないの?」
「いや、僕は……」


 手のひらを見せ、頑なに拒否をしてくる。スマホをスマホ用の小さな三脚にセットし、白桃大知が映るように、カラーボックスの上に置いた。

「何するんですか?」と、白桃大知が訊いてくる。返事をしないで録画ボタンを押し、白桃大知の横に座る。

 白桃大知のお皿に乗っていたオムライスを小さくしてスプーンですくった。小さめにしたのは大きいとケチャップとかが口周りについて汚れるからだ。でも、白桃大知だったらそれでもギャップとして可愛いと言われ、ウケるかもしれないけれど。

 スプーンを白桃大知の口に近づけると、白桃大知は反射的に口を開け、オムライスを口に含んだ。

『何これ、遥斗くんにあーんされてるよ……これはファンイベント?』

 白桃大知の顔は真っ赤になる。
 すごく可愛いなと思い、微笑んだ。

『あ、遥斗くんがこんな近くで笑ってる……』

 白桃大知は視線をそらしてきた。
 小さめのサイズにしたのに、口の周りにはケチャップが。

 それを手で拭い、指についたケチャップを俺はペロンとした。

『やば……もう、ムリ』

 ムリ? 顔に触れられるのは嫌だったのか?

 怒ってるような?表情をした白桃大知に否定された。初めて見た表情。

「ちょっと、トイレに行きたいです」

 動画に声が入らないように白桃大知はこそっと俺に呟いた。

「録画止めるね、ごめん……」

 止めると白桃大知はトイレに消えた。
 しばらくトイレから出てこない。距離があると心の声が全く聞こえなくなる。

 白桃大知は俺のファンだけど、俺に何されてもいいってわけじゃないよな。

 気をつけよう――。

 しばらくするとやっと出てきた。

「顔に触って、ごめんな」
「いえ、それは全然……あの、さっきの動画……」
「さっきの動画、使わないかな? 消すか」
「いや、あの僕の方に送ってください。編集します」

『あの映像独り占めしたいから、世間に晒すのは勿体ないけどせっかく撮ったから……そして、送られたデータをコピーし、永久保存の宝物コーナーに――』

 今撮った映像を見返してみた。白桃大知は、恰好良く映っていた。映像映えするタイプだ。

 俺と並んでも、引けを取らない。イベントの時はマスクをして地味な雰囲気で、そして心はいつも俺の心配してるお母さんなイメージだったけど……

 白桃大知は、売れそうだな。

 白桃大知も人気が出てほしい。どうしたらふたりで売れるのだろうか……。

「なぁ、ドラマみたいに、リアルでもBL風にファンに売り込んでみない?」
「ボーイズラブ……仕事じゃなくてプライベートで……?」

『ぜっっったいムリ!』

 心の中ですごい否定する白桃大知。
 否定しながら自分の部屋に走っていった。

 再びムリと心の中で言われ、白桃大知は俺の目の前からまた消えた。
 ズシンと胸の辺りが重くなる。

 リビングにひとり取り残された俺。
 そこまで否定しなくていいじゃん。

 とりあえずさっきの動画を送る。そして、『BLの話、なかったことにしといて』と一言付け足しておいた。
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