カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜
「なんでヒロムくんのことが好きなの?」

少女は私を見て、泣きそうな目で言った。

「入学してすぐに音楽の授業があって…」

「うん」

「一時間目だったの。私、寝坊しちゃって遅刻してたの。学校についた時は一時間目が二十分くらい過ぎてて。教室にカバンを置きに行く余裕もなくて、そのまま音楽室に走ったんだけど…」

「授業には間に合ったの?」

「学園に入って初めての音楽の授業だったんだ。音楽室は三階なのに間違って四階まで上ってきちゃって。また慌てて三階に下りようって思ったんだけどね」

「うん」

「三年生が美術の授業やってて。この準備室のドアが開きっぱなしになってたの。そこからヒロムくんが見えて…なんでか分かんないけどこの目が、大丈夫だよ、お疲れ様って言ってくれてる気がして…」

「そっかぁ。それで好きになっちゃったの?」

「触れてみたいって思った。どんな手触りで、どんな温度なんだろうっていっぱい想像した。だから放課後、美術部の人達が帰ってから、ヘアピンとか針金とか使ってこじあげようとしたら壊しちゃったんです」

「素直に見せてくださいって言えば良かったのに」

「その時は…まだそんな変なことお願いするのおかしいって気持ちが残ってたから…。でも一度壊して侵入したらそこからは歯止めが効かなくなって、誰にも内緒で密会してるっていうのがやめられなくなった」

「本気で好きなの?」

長谷川さんが聞いた。
少女は「好きです」ってきっぱり言い切った。

「でも…やめます…」

「やめるの?」

「おかしいってことも分かってた。私って変態なのかもってヒロムくんに会った夜はいつも落ち込んでた。本当は普通に戻るきっかけが欲しかったのかもしれません…」

「あのね、」

「はい」

「何が正しい恋かなんて誰にも分かんないんだよ」

「そうですか…?」

「確かに普通…とは言えないけどさ。誰かが本気で何かを好きになって幸せだった気持ちは誰にも否定できないんじゃないかな」
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