俺様御曹司は逃がさない
「さて、そろそろ帰るか」


重い腰を上げ、一歩踏み出した時だった。ちょっとした石っころに躓いて、見事に倒れ込んだ……のはいいが、こういう時に限って周りに人が居るもので、恥ずかしすぎて立ち上がれん。


「え、なにアレ」

「あのじいさん変な薬でもやってんじゃね?」

「こわっ」

「行こ?絡まれたくないし」

「動画撮らね?」

「ちょ、やめときなよ」


あれやこれやとヒソヒソ話す声が聞こえてくる。もうちょい聞こえんよう話せんもんか?

・・・・これも時代だな。

昔はもうちぃとばかし、助け合いの心っちゅうもんがあったような気もするが、今時こんな得体の知れん老人を助けようと思う若者はおらんか。まぁ、おらんわな。

いや、別にそれが悪いだの、おかしいだの、そんなことは言わんし思わん。ワシだって赤の他人をリスクを負ってまで助けたいとは、到底思えんからな。

ただ、一言だけ言ってもいいか?

・・・・恥ずかしいからさっさと何処かへ行ってくれ!!!!

そう心の中で叫んだ時だった。

誰かがこちらへ走って向かってきてる気配が──。少し遠くからでも分かる……息を切らしながら走っているのがな。

物珍しくて写真でも撮りに来たか?で、それをエスエヌエス?とやらに上げて、バズる?だの何だの騒ぎ立てて──。

はぁぁ……まったく。それの何がいいのかサッパリ分からん。依存者ばかりの世の中になったもんだ。

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