俺様御曹司は逃がさない
「柊弥様のお部屋までご案内致します。こちらへ」

「お、お邪魔します……」


霧島さんの後ろをキョロキョロしながら歩く不審者とは、まさにあたしのことである。


「くくくっ」


あたしの前を歩く霧島さんがクスクス笑い始めた。


「へ?」

「あ……すみません。七瀬様は本当に可愛らしいお方だなと思いまして」

「……え」


霧島さんがこんな小娘を可愛らしいと思うはずがない。あたしは一気に警戒モードに切り替わった。何か裏があるに違いない。だって霧島さんは……あいつの世話役なんだから。


「そんな警戒しないでくださいよ……。柊弥様が七瀬様を選んだ理由が何となく分かった気がする……というだけのことです」

「……はあ、そうですか……」


その後、少し歩いて霧島さんの足が止まった。


「こちらです。では、ごゆっくり」


そう言い残して去っていく霧島さん。

・・・・いや、『ごゆっくり』とは……?

ま、この際なんでもいいや。コンコンッと部屋のドアをノックしてみたけど、なんの反応もない。


「し、失礼しま~~す」


小声でそう言いながら、ゆっくりドアを開けて部屋の中に入った。音を立てずドアを閉めて、泥棒になった気分になりながら、抜き足差し足忍び足でベッドで寝ているであろう九条に近付いた。

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