俺様御曹司は逃がさない
・・・・まあ、お母さんがそんな表情になる理由はただひとつ。


「んーー。ああ、高校ね。行くなら定時制かなって思ってるよ。働きたいしね」


なんて話していると、缶ビールを片手に上機嫌で帰って来たお父さんがヘラヘラしながら近付いてきた。


「お、その壁やったの慶かぁ~?全くアイツは誰に似たんだかぁ~」


なーんて笑いながら私の頭を撫でて、仕事部屋に吸い込まれるように入っていくお父さん。

あたしは撫でられた頭を真顔でパッパッと払った。ちゃらんぽらんが移ると困るからね。あ、別に毛嫌いしているわけではないよ?本当にちゃらんぽらんが移るのが怖いだけ。


「舞には我慢ばかりさせるわね……ごめんね?」


しんみりするお母さんを見ると、あたしまでツラくなる。いつもみたいに笑顔でいて欲しい。それ以上のことは何も望まない。家族みんなが楽しく過ごせればそれでいい。


「なに言ってんの。別に我慢なんてしてないよ?……あ、ちょっと拓人ん家行ってくるね~」


あたしはこの場にいるのが嫌になって逃げ出した。だって……本音が溢れそうになっちゃうから。『いつもみたいに笑顔でいて欲しい。それ以上のことは何も望まない。家族みんなが楽しく過ごせればそれでいい』これは紛れもなく本音。

でも──── いや、口にするのはやめとこう。これは、この思いは内に秘めておかないといけない。だってあたしは長女だから、あたしがしっかりしないといけないから。

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