俺様御曹司は逃がさない
・・・・でも、ここで反応したらあたしの負け。九条の思う壺だ。がんばれ七瀬舞……無視を極め込むのよ!!


「……ふーーん。そういう態度ね」


九条がそう言った次の瞬間──。


「ひゃあんっ……!?」


脇腹をツーーッと優しくなぞられて、自分でもビックリするくらい変な声が出た。慌てて手で口を押さえたけど、そんなの意味を成さないってことは、自分が一番よく分かっている。


──── ああ、穴があったら入りたい……。


とにかく、とにかく何か言わなくちゃ。九条が何かを言ってくる前に何か言わないと!!


「あっ、あんた……さ……」


バッと勢いよく九条の方へ向いたのはいいんだけど、九条があまりにも真剣な表情をしてあたしを見ていたから、言葉が喉につっかえて出てこなくなった。

沈黙が流れて、ただ見つめ合うあたし達。

そんな沈黙を破ったのは九条だった──。


「お前…………処女?」


──── は?


「ま、その感じだとほぼ確で処女だわな」


バシンッ!!!!

車内に響いた強烈な音、そして痛む手のひら。


「とっ、柊弥様!?」


キィイッ!!と急ブレーキをかけて、車を路肩に停車させた運転手さん。あたしはシートベルトを外して、ドアを開けて外へ出る。


「いっぺんくたばりやがれ、このクソ野郎」


声を張り上げることも、小声で言うわけでもなく、ただ冷めた顔と声で九条にそう言い放ち、車のドアをバンッ!と閉めてその場を去った。

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