俺様御曹司は逃がさない
「はぁぁ……どうしよう。なんて言えばいいの……?」


お母さん達にバイトをクビになったって説明をする時、どんなテンション感で言うか、なんて理由を述べるか……すんごく迷うんだけど。


『ハッハッハッ~。いやぁ、なぁんか知らないけどクビになっちったぁ~!!めんごめんご~。ま、こういう時もあるよね~。ドンマイどんま~い!!へっへっへっ~!!』

・・・・・・いや、違う。全っ然違う。

正直、あたしだって急すぎてちんぷんかんぷんだし、クビになった理由もよく分かんない。

『もう働く必要もないでしょ』

『お幸せに』

・・・・って、なんだ?


「はぁぁぁぁーーーー」


海よりも何よりも深いため息を吐きながら、いつ見ても、どこからどう見てもボロボロな我が家が視界に入った。

・・・・ただただ帰りたくない。

うつ向きながらトボトボ歩いて、家まで後少しって所まで来て顔を上げた。


「…………ん?」


家の前に停まっている1台の高級車。立ち止まって、思考が停止する。だって……物凄く嫌な予感がするから。


『ヤバい、逃げろっ!!』


危険を察知した脳があたしに訴えてくる。脳というより、あたしの“本能”がそう訴えてくる。

でも、不思議と体が動かない。何故かは分からないけど、もう体が諦めてるって感じかな。


──── あたしは、アイツからは逃げられない。


心の片隅で、ずっとそう思っていた。

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