俺様御曹司は逃がさない
とびっきりイケメン風を吹かせて、満面の笑みをあたしに向けてきた。ゾゾゾッと背筋が凍りそうなほどの悪寒。

普通の女ならキャーキャーなるんだろうけど、残念ながらあたしは“気持ち悪い”としか思えない。


「柊弥君がよければウチで晩飯食ってくか?」 

「はぁあっ!?ちょ、お父さん!!」

「いいんですか!?凄く嬉しいです」

「ちょ、九条!!なんであんたもノリノリなのよ!!」

「よし、決まりだな!!舞、いつもより張り切って作れよ~」


ニヤニヤしながらあたしを見てくるお父さん。


「七瀬さんがいつも料理を?」

「……別に、いつもってわけじゃない」

「そっか。それは楽しみだ」

「……はぁぁぁ。あの、明らかに材料不足なので買い物行ってきます。さようならーー」


今日、お母さんが作ってくれる予定だったのに……なんでこうなるのよ……。


「あ、僕も行くよ」

「結構です。もうひとりにしてっ……」

「僕なんて荷物持ちくらいしかできないけど」

「いや、だからっ……」

「では……いってきますね、お父様」

「おう!気ぃ付けろよ~!!」

「なっ!?ちょっ……!!」


九条があたしの肩に腕を回して、そのままグイグイ押してくるその勢いで外に出された。あたしの肩に乗っている無駄に長い腕をポイッと捨てて歩き始める。


「くくっ。ほーんとつれないね~」

「馴れ馴れしく触るのやめてくれます?」

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