【短編】お向かいの双子くんは私のことがお気に入りらしい
すると、誰かが帰ってきた。


紅輝くんママかな? さっき紅輝くんが電話したら、『今帰ってる途中』って。

お向かいさんだけど、家に上がったのは初めてだから、早く着替えてご挨拶しないと。


Tシャツに頭を通し、ズボンを穿こうと片足を上げたその時。


──ガチャッ。



「…………え」



ドアの開く音が背後で響いた。

数秒後に聞こえた低音ボイスは、今朝耳にしたばかりの声。



「あっ、えっと、お邪魔してま……きゃっ!」



目を見開いたまま微動だにしない紅耀くんに動揺し、またもバランスを崩して転倒。バタバタバタと大きな音が響き渡る。


あ、あれ……? 痛く、ない……?



「あっぶね……」



頭上から漏れ出た、掠れた声。

目を開けた先には、紺色のベストと赤いネクタイ。

起き上がってみると、腰をガッチリとホールドされていて……。



「大丈夫か?」

「っだ、大丈夫ですっ……! ごめんなさいっっ!」



叫ぶように謝り、仰向けになっている紅耀くんから慌てて離れる。


彼女じゃないのにごめんなさい! 女の人苦手なのにごめんなさい……!


急いでズボンを穿こうとするも、騒ぎを聞きつけた紅輝くんが現れ、現場はプチパニック。

もう2度と歩きスマホはしないと固く誓ったのだった。
< 19 / 70 >

この作品をシェア

pagetop