【短編】お向かいの双子くんは私のことがお気に入りらしい
懐かしい音色に吸い寄せられるように歩を進め、英会話教室の前で足を止めた。

曇りガラスで中の様子は見えないけど、きっとニコニコ顔で歌っているんだろう。時折笑い声が上がっている。


ふふっと小さく笑みを浮かべた瞬間、当時の記憶が脳内になだれ込んできた。


あれは音楽の授業。

男女でペアを組んで歌のテストをすることになったのだが、上手く発音できない単語があった。


何度やっても毎回つまずいて。足を引っ張ってしまうのではと不安が募り……。


もういっそのことズル休みしてしまおうか。

そんな逃げ思考に陥っていたら──。



『大丈夫! 松木くん音程バッチリだもん!』

『他の部分は完璧だから、コツさえ掴めば絶対歌えるようになるよ!』

『もし失敗しても私がカバーするから安心して!』



予想していたのは、『わかる、難しいよね〜』という共感の言葉。

正直、嬉しさよりも驚きのほうが大きかった。


頑張り屋だけど、ちょっぴりそそっかしく、どこか隙がある愛されキャラ。

そんなふうに認識していたから、頼もしい言葉で返されると思ってなくて、面食らってた。
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