【短編】お向かいの双子くんは私のことがお気に入りらしい
最後のわがまま
あの日を境に、紅耀くんとギクシャクしてしまった。


顔を合わせるのは下校時のみ。

会話は、別れ際の挨拶と、お届け物を渡す時だけ。

登校も、初日は正門から入っていたが、今は裏門を使っている。



「行きたくないな……」



全身鏡の前でリボンを整えながら弱音をこぼす。


この数日間、いつ話を切り出すかタイミングをうかがっていた。

目は別れる時しか合わせなかったけど、綺麗な横顔はその5倍、いや10倍は見た。


誠心誠意謝罪して、話をしなきゃいけないとわかってはいるんだけど……。



『お前もそっち側の人間だったんだな』



いざ声を出そうとすると、あの表情が脳裏に浮かんできて。

変に詰まってしまい、話を切り出そうとすればするほど挙動不審に。

別れ際の挨拶も、相手に届いているのか怪しいところだ。


壁掛け時計に目をやると、出発時間の5分前を差していた。

再びこぼしそうになった弱音をグッと呑み込んで、代わりに息をフーッと吐き出す。
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