悲劇のフランス人形は屈しない2
「誕生日おめでとう!」
夜も8時を回った頃、いつもより早めに帰宅したまどかの向かいに座って私はグラスを掲げた。
「ありがとう」
どこか恥ずかしそうに妹は俯き加減に言った。
「お姉さまも、今回の試験もまた学年3位だったでしょ」
「え?」
「おめでとう」
オレンジジュースに口を付けながら、まどかが言った。
「そのお祝いもしたかったの」
そして、妹はいそいそと二階に上がり、何かを持って来た。
「これ、プレゼント」
思いがけないサプライズに私は目を見開いた。
「大したものではないけど…」
私は小さな袋を開けると、6色の糸で編まれたミサンガが出て来た。
「手作り?」
私がそう聞くと妹は顔を真っ赤にして頷いた。
「不器用だから出来はそんなに良いものではないけど…。学校の子がお姉さんとお揃いだって自慢してくるから、私もやりたいと思って。動画を見て作ってみたのだけど」
どんどんと声が小さくなる妹に胸がキュンとする。
「良く出来てる。ありがとう。大切にするね」
すぐさま左の手首にそのミサンガを付けた。
「まどかのは?」
妹は自分の右手を出した。
「お揃い」
私が笑うと、まどかも嬉しそうに頷いた。
「さ!食べようか!」
私はパチンと手を打った。
私たちの目の前には、私が腕によりをかけて作った料理がところ狭しと並んでいた。
藤堂のパーティーから引き上げたあと、平松にお願いをして夕食の買い物に行った。ケーキも手作りにしたかったので、平松と手分けして買い物を済ませ、すぐさま帰宅した。実質4時間以上かかったが、可愛い妹の為に作る料理は全く苦ではなかった。
「これ、全部手作り…?」
箸を持ったまま静止している、まどかが聞いた。
「もちろん。ケーキももちろん手作りよ」
「…すごい」
妹がぼそりと呟いた。
私は小皿を取り、まどかに一つずつ取り分ける。
「食べたいのがあったら、言ってね」
私がそう言うと、妹は遠慮がちにある品を指さした。
「キッシュ?はい、どうぞ」
「キッシュ…」
まるで言葉を口の中で味わうようにまどかは言った。
「いただきます」
フォークに持ち替え、妹はキッシュを一口頬張った。
「美味しい」
「良かった」
私も一緒に食べ始める。
二人とも満腹になるほど食べ、私が冷蔵庫から締めのケーキを取り出している時、ピンポーンと家のチャイムが鳴った。
「誰?」
インターホンに駆け寄ったまどかに聞くと、妹は首を傾げた。
「なぜこの人たちが?」
ガチャンと解錠の音がして、まどかが誰かの為にドアを開けたのが分かった。
「だれ…」
ケーキを両手で抱えたまま呟いた時、ドアが開いた。
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