悲劇のフランス人形は屈しない2

おまけ(風邪)

*おまけ*
修学旅行が終わり、数週間経った頃。
「海斗。寝不足?」
壮真が俺の顔を覗き込んだ。
その質問には答えなかったが、実は最近ずっと眠れない日々が続いていた。
(修学旅行のせいだ…)
理由は分かっていた。リネン室で、二人きりになった時に自分の気持ちにも気づいてしまった。その時から白石とどう接したらいいか分からなくなった。
(だから、どうした。小学生のガキじゃあるまいし…)
しかしやっていることは、ガキっぽいと自分でも自覚していた。白石が榊と一緒に話しているところに遭遇しては、壮真を使って邪魔をしたくなる。
しかし、それに気がついたのか榊がにやりと笑って言った。
「透は、言わないと何も気づかねーぞ。鈍感だし」
そして付け加えた。
「それにアイツは、人には言えない大きな秘密を抱えてる。お前にそれが引き出せるか?」
意味深な言葉を残していったが、それが忘れられない。
下の名前で呼ばせていることにも腹が立つが、何より誰にも見せない表情を榊の前では平気で出す白石にも苛立つ。
榊は白石を恋愛対象ではないと言っていたが、アイツの行動を見ているとそれも疑わしく思えてくる。
そんなことを考えているせいで、最近はずっと夢に白石が出て来る。寝不足が続いたと思ったら、数年ぶりに風邪を引いてしまった。
(これで、また榊に先を越される…)
働かない頭でぼんやりとそんなことを考える。
体中が熱くて、苦しい。
ふと冷たいものが額に当たるのを感じた。優しく汗を拭いているのが分かった。
(母…ではないな)
物心ついた時から、両親が家にいたことはなかった。幼少期の時でさえ、側にいなかったのだから、今さら息子が風邪を引いたからと言って戻ってくることなどあり得ない。
薄目を開けると、ふわふわと広がる栗毛が見えた。
(ああ、また夢に出てきたのか)
手を伸ばし、細い腕を掴んだ。
(やけにリアルな夢だな…)
夢の中でさえもいつもそっけない態度の白石だが、今回は凄く大人しい。
(やっぱり夢だ)
そしてそのまま、深い眠りへと沈んで行った。
*おまけ終わり*
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