悲劇のフランス人形は屈しない2
真徳生のみが参加できる日とは言え、真徳は初等部から高校までが一貫校になっているため、初等部や中等部の学生も真徳祭に来ていた。そのためか規模が大きく、テントが至る所に張られている。校内や校外関係なく、歩くたびにいい匂いが私の胃袋を刺激した。
真徳祭のいいところは、全ての料理がプロの手によって作られていることだ。販売している人や給仕係は真徳生だが、料理を手掛ける学生は一人もいない。
「お腹いっぱい…」
文化祭のためにグラウンドに設置されたウッドデッキで私は呟いた。何を食べても大当たりなので、ついつい食べ過ぎてしまう。
「よく食うな。どこに入ってんの?」
隣に座っていた榊が、グリーンカレーを食べ終わった私を見て言った。
「あなたに言われたくない」
呆れながら榊の前に積み上げられた紙皿の山を見つめた。
榊は、蓮見がドン引きするほどによく食べた。席に着いて食べ始めたと思ったら、すぐに立ち上がり姿を消す。そして数分後には、両手に何かしらの料理を持って帰って来るのだ。最初は面白がっていた蓮見だが、それが5回も続いた時には言葉を失っていた。
「それ、美味しそうね。どこにあった?」
榊が手に持っているパンダのクッキーが乗った苺パフェを見て、私は聞いた。
「食う?」
差し出されたパフェを見て、私は頷いた。
「一口だけ貰うわ」
「あ!パンダ取りやがったな!」
「だって残ってたから」
「最後に残してたのに!」
「名前書かれてなかったから」
「お前っ!貰っている分際で…!」
「ごちそうさま」
「覚えとけよ。食べ物の恨みは怖いからな」
私たちのやりとりを見ていた蓮見が、肘をつきながらぼそりと聞いた。
「ねえ、二人って付き合ってる?」
驚き発言に思わず私はむせてしまった。
「なんでだよ」
スプーンを口にくわえながら、呆れたように榊が突っ込んだ。
「なんか二人の距離が違うというか」
蓮見は肘をついたまま、私をじっと見つめた。
「白石ちゃんの心の開き具合が違うよね。明らかに俺たちに対する態度とは違うというか」
「そ、そうかしら?」
(榊は私の正体を知っているだけなんだけど。秘密を共有しているとも思われたくない…)
私の焦りをよそに、榊はのんきにパフェの続きを食べている。
「これからは気をつけるわ」
「それ!」
蓮見が指をさした。
「な、何…?」
私はぎょっとして、目を見開いた。
「その一歩、いや百歩くらい距離を置いている感じ!」
「つまり、なんだ」
あっという間にパフェを食べ終わった榊が、蓮見の方を見た。
「透が心を開いてくれなくて寂しいってことか?」
「そう!白石ちゃんにはもっと素で接してもらいたい!」
(なぜ…)
私の呆れた表情を見て、蓮見が笑った。
「ほら、こういう分かりやすい表情を出してくれる時は打ち解けた感じはするんだけどね。言葉がね!壁を作られている気がしちゃうんだよね」
(こっちは素を出さないように頑張っているんですが)
目の前の水を飲み、心の中で答える。
「まあ、透は友達の作り方が分かんないんだよ」
榊が私の頭を軽く叩いた。
「巨大な秘密も抱えてるしな」
それから私の耳元で囁いた。
(お前は黙っとれ)
私は目だけで威嚇するが、榊は全く動じていない。
「なんで榊は別なの?」
純粋に気になる様子で蓮見が言った。
「それは…」
私は言葉に詰まった。
(早々に秘密がバレたからとは言えない…)
「それは俺の魅力じゃね?」
「アホか」
私の代わりに蓮見が突っ込んだ。
「いつか心を開いてくれることを願っているよ」
どこか寂しげに蓮見が言った。
「俺よりも、海斗が」
「え?」
私が聞き返すより早く、蓮見がいきなり席を立った。
「そうだ!海斗を探してる途中だった!ゆっくりご飯してる場合じゃなかったよ」
「連絡来てねぇの?」
椅子の背もたれに寄りかかりながら榊が聞いた。
「さっきは何度確認しても…。あ」
スマホを見ながら固まった様子を見ると、連絡が来ていたようだ。
「保健室で寝てたって。そろそろクラスに戻るって言ってる」
「じゃあ、俺たちもそろそろ戻るかー」
榊が大きく伸びをしながら言った。
「そうね」
私も席を立ち、校舎へと向かった。
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