悲劇のフランス人形は屈しない2
まどかとのランチ(今回のリクエストは、ガパオライス)が終わると、私は藤堂のパーティーへ、妹は習い事へと出発した。
やはり前回と同様、扉の前には黒服を着た男性が立っていたが、今回はただ単に形だけのようで暇そうにしていた。私が現れても何一つ言わず、ただ扉を開けてくれた。
「あら、いらっしゃい!」
玄関口に入るとすぐに藤堂が出迎えた。今日のドレスのテーマは、マリーアントワネットなのか、裾が大きく広がった派手なピンク色のドレスを着ている。動くたびにキラキラと輝く王冠のような派手な髪飾りによく似合っていた。
「あら、手土産なんて良かったのに」
そう言いながら、私から有名チョコ店のロゴが描かれた袋を受け取った。
「あら、蓮見さまは?」
私の後ろを確認し、明らかに表情が険しくなっている。
「みなさん、忙しいみたいで」
「役立たず」
藤堂がぼそりとそう呟くのが聞こえた。
「では、案内するわね」
しかし次の瞬間には、ひまわりのような笑顔に戻っていた。
(悪意むき出しなんだよな~)
私はふうとため息を吐きながら、藤堂について会場内へと入った。
ピンクや白、赤と言ったバレンタイン色で埋めつくされた会場は、ハート形の風船やお花が至るところに飾られていた。まるで、イベント中のチョコレート店のような佇まいだ。誕生日の時とは異なり、男女比の差がバランスよく取れている気がした。全体的に数は多くないが、どこかしこでカップルが誕生しそうな雰囲気だった。
「好きにしていって」
そう言い捨てると藤堂は、さっさと私の側からいなくなった。
(到着して早々放ったらかし…。ん?)
「あ。チョコファウンテン!」
私は小さく叫んだ。田舎に住んでいた頃から憧れていた、チョコファウンテンが、部屋の真ん中に堂々と設置されていた。いい香りを放出している小さなチョコレートの噴水に近づき、イチゴやマシュマロ、オレンジなど色々な具材をチョコレートに浸していく。
「ん~美味しい!やはりチョコは正義よね」
口いっぱいに含みながら私は体を震わせた。
バレンタインのパーティーと言うことで、チョコレートを使ったデザートがずらりと並んでいる。私は一つずつ口に放り込みながら、長テーブルに並んでいるスイーツを眺めた。
「やっぱりチョコケーキかなぁ」
妹の誕生日ケーキの参考になるかと、色々見て回る。
その時、ふと視線を感じて顔を上げた。
数人の女子が集まって赤い色のドリンクを飲んでいるのが視界に入った。そしてその後ろから、見覚えのある人物がこちらを見ていた。
「う、嘘…」
思わず声が漏れた。
この会場にいるどの人よりも背の高い、短髪の女性がこちらを見ていた。この場に似ても似つかない倉庫会社の灰色の作業服を着ている。
「杉崎凛子…」
私がそう呟くと、その人物はどこか悲しそうに微笑み、頷いた。そして、何も言わずに会場から去って行く。
「ちょ、ちょっと待って…!」
急いで彼女の後ろ姿を追いかけた。
しかし、会場を出たところでその姿はふっと消えてしまった。
玄関口を見渡したのち、会場にまた戻ってみるが、もう彼女の姿はどこにも見当たらなかった。
(ここに私が…杉崎凛子がいる訳がない)
寝不足のせいかもしれないと、私は頭を振った。
それから、藤堂に一言告げ、滞在時間15分という異例の速さでパーティーを後にした。
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