身代わりで嫁いだお相手は女嫌いの商人貴族でした
4.バルツァー侯爵
夢を見た。幼かった自分に優しかった乳母が、まだ自分の傍にいてくれた頃のことを。幼かった自分は、栄養が足りないせいなのか、人とあまり接していない割によく風邪を引いた。その時に、そっと乳母が手を伸ばして額に触れてくれていたことを思い出す。そうだ、誰かが、今まさに、自分の額に手を触れているような気がする。
(誰? 私の額に手を……?)
ぼんやりと意識が浮き上がる。すると、彼女の額にそっと触れていた手が離れた。うっすらと目覚めて何度か瞬きをすると、枕元にリーゼが膝を折って屈んで覗き込んでいる姿が映った。
「ああ、起こしてしまいましたか。どうですか。起き上がれますか」
「リーゼ……さん……」
「リーゼ、で良いのですよ。アメリア様」
「わたし……」
頭痛がして。めまいがして。そうか、倒れてしまったのか、となんとか思い出す。
「ごめんなさい。ちょっとだけ疲れていて……」
「ええ、ええ、そうでしょう。ヒルシュ子爵家からここまでの長旅、おひとりだったとのこと。後から門兵から聞きました。ですから、相当にお疲れだったのでしょうね」
その声は優しい。自分はもうバルツァー侯爵家から出て行かなければいけないというのに、こんな風に情けをかけてもらえるのか……それを心からありがたいと思いながら、アメリアは体を起こした。
「ちょうど良かったです。お腹はどうですか。あれからもう一日半も経過しています。ずっと何も食べていらっしゃらないでしょう? お水は時々、勝手ながらお口に差していたのですが……」
「一日半も?」
アメリアは驚いて目を見開く。リーゼは「ええ、ええ。もう今日はあの日から2日後の朝ですよ」と笑顔を見せる。
「ごめんなさい。わたし、ここから出て行かなければ……すぐに出ていきますから……」
慌てて毛布を跳ねのけるアメリア。すると、そこにノックもなしに扉が開いて、バルツァー侯爵が姿を現した。驚いて身を竦めるアメリア。
「起きたか。通りがかりに声が聞こえたのでな」
「あっ……の、今すぐ、今すぐ出ていきますのでっ……」
見れば、やはり変わらず険しい表情で眉をしかめている。どう見ても自分のことをよく思っていない彼にじろりと睨まれ、アメリアは萎縮をした。
(怖い……でも、お怒りになるのは仕方がないことだわ。これぐらいは我慢をしなくちゃ)
だが、そんな彼女に思いもよらない言葉がかけられた。
(誰? 私の額に手を……?)
ぼんやりと意識が浮き上がる。すると、彼女の額にそっと触れていた手が離れた。うっすらと目覚めて何度か瞬きをすると、枕元にリーゼが膝を折って屈んで覗き込んでいる姿が映った。
「ああ、起こしてしまいましたか。どうですか。起き上がれますか」
「リーゼ……さん……」
「リーゼ、で良いのですよ。アメリア様」
「わたし……」
頭痛がして。めまいがして。そうか、倒れてしまったのか、となんとか思い出す。
「ごめんなさい。ちょっとだけ疲れていて……」
「ええ、ええ、そうでしょう。ヒルシュ子爵家からここまでの長旅、おひとりだったとのこと。後から門兵から聞きました。ですから、相当にお疲れだったのでしょうね」
その声は優しい。自分はもうバルツァー侯爵家から出て行かなければいけないというのに、こんな風に情けをかけてもらえるのか……それを心からありがたいと思いながら、アメリアは体を起こした。
「ちょうど良かったです。お腹はどうですか。あれからもう一日半も経過しています。ずっと何も食べていらっしゃらないでしょう? お水は時々、勝手ながらお口に差していたのですが……」
「一日半も?」
アメリアは驚いて目を見開く。リーゼは「ええ、ええ。もう今日はあの日から2日後の朝ですよ」と笑顔を見せる。
「ごめんなさい。わたし、ここから出て行かなければ……すぐに出ていきますから……」
慌てて毛布を跳ねのけるアメリア。すると、そこにノックもなしに扉が開いて、バルツァー侯爵が姿を現した。驚いて身を竦めるアメリア。
「起きたか。通りがかりに声が聞こえたのでな」
「あっ……の、今すぐ、今すぐ出ていきますのでっ……」
見れば、やはり変わらず険しい表情で眉をしかめている。どう見ても自分のことをよく思っていない彼にじろりと睨まれ、アメリアは萎縮をした。
(怖い……でも、お怒りになるのは仕方がないことだわ。これぐらいは我慢をしなくちゃ)
だが、そんな彼女に思いもよらない言葉がかけられた。