身代わりで嫁いだお相手は女嫌いの商人貴族でした
6.アウグストの過去
そもそも、アウグストはアメリアだけを邪険にしているわけではない。彼は、借金を返してからおよそ一年後、財が増えたおかげで多くの女性たちが彼の肩書きや財力を求めて近寄って来たことに辟易していた。だからこそ、誰が来ても彼は比較的女性を邪険に扱った。中には、取引先のご令嬢として丁重に扱わなければいけない相手もいたが、逆を言えばそのような取引先とは疎遠になっても良いと彼には思えたし、それは間違いではなかった。
そんな中、彼にも信じられる女性が現れた。その女性は、彼の肩書きやら何やらを知らず、ただ、町中でたまたま会っただけの相手だった……と、彼は思っていた。
彼は自分の素性を彼女に明かさず、ただ、町で出会っただけの関係、挨拶だけをする間柄から少しずつ距離を縮めて行った。彼女は高級食材店の店員で、彼はただ「時々顔を出す常連」だった。
彼は、彼が卸している商品が正しい形で流通されているのかを調査するため、名を偽ってその店を訪れていた。だから、彼女が自分がどこの誰なのかを知らないだろうと思っていたし、彼女もまた「そう」である振りをして彼に接していた。
だが、その店の主人は彼の顔を知っており、彼女はその主人の娘だった。店の主人はアウグストが訪れたその日からずっと、自分の娘に「あの男を落とせ」と言い続け、そして娘は猫を被って彼に近づいた。何も知らない振りをして、ただの常連客に接する振りをして、笑顔で「いつもありがとうございます」と彼に挨拶をした。時間はそれなりにかかったものの、貴族令嬢たちからの求婚に疲れていたアウグストは、まんまと彼女に絆された。
「そろそろ彼女に求婚をしよう」
そう考え、彼は10日後の彼女の誕生日にリングを渡そうと決めた。サイズはとっくに聞いていたし、彼女が好きなモチーフも聞いていた。今思えば、そう簡単にリングのサイズやら好きなモチーフを教えていたこと自体が怪しいのだが、当時の彼は少し舞い上がっていたのだ。
そんな中、彼にも信じられる女性が現れた。その女性は、彼の肩書きやら何やらを知らず、ただ、町中でたまたま会っただけの相手だった……と、彼は思っていた。
彼は自分の素性を彼女に明かさず、ただ、町で出会っただけの関係、挨拶だけをする間柄から少しずつ距離を縮めて行った。彼女は高級食材店の店員で、彼はただ「時々顔を出す常連」だった。
彼は、彼が卸している商品が正しい形で流通されているのかを調査するため、名を偽ってその店を訪れていた。だから、彼女が自分がどこの誰なのかを知らないだろうと思っていたし、彼女もまた「そう」である振りをして彼に接していた。
だが、その店の主人は彼の顔を知っており、彼女はその主人の娘だった。店の主人はアウグストが訪れたその日からずっと、自分の娘に「あの男を落とせ」と言い続け、そして娘は猫を被って彼に近づいた。何も知らない振りをして、ただの常連客に接する振りをして、笑顔で「いつもありがとうございます」と彼に挨拶をした。時間はそれなりにかかったものの、貴族令嬢たちからの求婚に疲れていたアウグストは、まんまと彼女に絆された。
「そろそろ彼女に求婚をしよう」
そう考え、彼は10日後の彼女の誕生日にリングを渡そうと決めた。サイズはとっくに聞いていたし、彼女が好きなモチーフも聞いていた。今思えば、そう簡単にリングのサイズやら好きなモチーフを教えていたこと自体が怪しいのだが、当時の彼は少し舞い上がっていたのだ。