身代わりで嫁いだお相手は女嫌いの商人貴族でした

7.レース編みのショール

 その日、アメリアはリーゼに連れられて仕立て屋にいった。前回発注したドレスの仮縫いが終わったと聞いたからだ。ドレスを作る過程でそうやって呼ばれて試着を何度かするということを、彼女はそれまで知らなかった。

「まあ。おっしゃられたように、少しだけふくよかにおなりですね。よかったです」

 仕立て屋の女主人にそう言われて、アメリアは「ドレスは大丈夫ですか?」と尋ねた。女主人は頷いて

「勿論です。それに、お胸が少しあった方がこの形は更に綺麗に見えますので、本当にようございました」

と告げた。

 帰る前に少し町中を歩きましょうとリーゼに言われ、前回ほど疲れていないアメリアはそれに同意をした。馬車を待たせ、町を歩いてあれこれリーゼは説明をする。それは、当主であるアウグストの妻になるのだから、町のこともいくらかは知っておいた方が良いという彼女からの思いやりだった。

「案外とこの町は栄えておりますので。アメリア様の御実家の方はよくわかりませんが、この辺りでは一番の町と言えるでしょう」

 リーゼのその言葉に、アメリアは「そうなのですね」とだけ答えた。ヒルシュ子爵領にある町のどこにもアメリアは出かけたことがない。だが、ここに来るまでいくつかの町を通過してきた。だから、リーゼが言う「この辺りでは一番の町」という意味は理解を出来る。確かにそうだった。町には店以外にも、路上で商いをする者がおり、それは秩序だっている。話を聞けば、許可制で一週間ごとにそこに並ぶ者は変わるのだと言う。

「侯爵様が許可を出しておりますし、定時に見回りもしていますので、安心して買い物が出来ますよ」

「まあ……活気があるのね」

 ふと見れば、レース編みの露店があった。アメリアはそこに興味を惹かれて立ち止まる。リーゼはそれに気づき、アメリアに「気に入られたんですか」と尋ねた。

「昔……」

 と、説明をしようとして、アメリアは「いえ、なんでもないわ」と止める。

 昔、彼女の世話をしてくれた乳母が、レース編みを編んでくれたことを思い出す。あまりにもぞんざいに扱われていたアメリアを憐れみ、かといって多くの物を買うことも出来ないため、彼女は質がそうよくないレース糸と針を持ち込んで、彼女にリボンを編んだり、短くなったスカートの裾にレース編みのモチーフを足したりしてくれた。

(なんだか、思い出してしまった……)

 そこに並んでいるものたちは、店番である年配の女性の手作りなのだろう。店番をしながら、レース編みをしている。その手元で編まれているレースのモチーフを見て、アメリアは乳母を思い出していた。
< 21 / 46 >

この作品をシェア

pagetop