身代わりで嫁いだお相手は女嫌いの商人貴族でした
「あ……」
「おい、大丈夫か」
「アウグスト様……おかえりなさいませ」
見れば、アウグストが帰って来たところだった。外套を着ているため、明らかに外から戻ったのがわかる姿だ。
「……何やら、花嫁のヴェールのようだな」
彼はそう言って小さく笑う。アメリアは一瞬何を言われているのかわからずきょとんとしたが、少しぼんやりしてから、彼がレースのショールのことを言っているのだと気付いて「あっ……」と小さく声をあげる。それから、どう答えたら良いのかわからなくなって、頬を染めて俯いた。
アウグストは「少し待っていろ」と言って、そこから離れた。アメリアは一体どうしたのかと不安そうに、床に座って彼が戻って来るのを待つ。その時間、ほんの1,2分。彼は戻って来た。
「これを使え」
そう言ってタオルを差し出すアウグスト。
「ありがとうございます」
アメリアは、頭にかぶっていたショールをとって肩にかけ、タオルで髪を拭く。滑らかな金髪の端から、ぽとりぽとりと水滴が落ちて室内着を更に濡らす。アウグストは勝手に手を伸ばして、彼女の肩からショールを取った。それに気付いて慌てて声をあげるアメリア。
「あっ、そ、それは……そのっ……ごめん、なさい。貴族には……似つかわしくないもの、でしょうが……」
「うん? 十分水を吸っているのだから、肩にかけては……」
「あっ、そういうことでしたか。わたし……」
恥ずかしい、とアメリアは更に頬を紅潮させる。アウグストは手に持ったタオルでショールを包みながら
「貴族には似つかわしくないか」
と呟いた。彼の言葉の意図がわからなかったものの、アメリアは少し沈んだ声音で答える。
「わたしには身の丈にあったもののように思えるのですが、きっと、普通の貴族は……」
「そうだな。確かにそうなんだろう。これか。リーゼと出かけて買って来たのは」
アウグストにはそんなことまで報告されているのだ、とアメリアは少しだけ驚いた。が、それへ「はい」と小さな声で返す。
「わたしにも、これが貴族にあうものだとは思えない」
「!」
「だが、そうではないものを身に着けることは、別段悪くないと思っている。人前では虚勢を張っても、家の中でなら構わないだろう。それに、君が自分で選んで買ったのだろう? 人と言うものは、何かを欲して、選んで、物を手に入れるものだ。わたしが知る限り、君がここでそう欲して手にしたものはこれが初めてだろう。ならば、それは尊重する。身の丈がどうこうという話ではない。君がこれを選んだのだから、そんなものは関係がない」
アメリアにはアウグストが言っていることがあまりよくわからない。わからないが、自分が初めて選んで買ったものを受け入れてくれたのだ、ということは理解を出来た。
「ありがとうございます……!」
彼がタオルからショールを出してアメリアに戻せば、彼女はふわりと微笑んでそれを受け取った。
「着替えは大丈夫か。濡れたものは脱いで、廊下に出しておけばいい。風邪をひく前に急げ」
「はい。ありがとうございました」
アウグストは自分が手にしていたタオルもアメリアの肩にかけ、そのまま私室に向かおうとする。
「おやすみなさいませ」
アメリアが柔らかい声を背に投げると、彼は足を一瞬止め「ああ。おやすみ」と返した。
「おい、大丈夫か」
「アウグスト様……おかえりなさいませ」
見れば、アウグストが帰って来たところだった。外套を着ているため、明らかに外から戻ったのがわかる姿だ。
「……何やら、花嫁のヴェールのようだな」
彼はそう言って小さく笑う。アメリアは一瞬何を言われているのかわからずきょとんとしたが、少しぼんやりしてから、彼がレースのショールのことを言っているのだと気付いて「あっ……」と小さく声をあげる。それから、どう答えたら良いのかわからなくなって、頬を染めて俯いた。
アウグストは「少し待っていろ」と言って、そこから離れた。アメリアは一体どうしたのかと不安そうに、床に座って彼が戻って来るのを待つ。その時間、ほんの1,2分。彼は戻って来た。
「これを使え」
そう言ってタオルを差し出すアウグスト。
「ありがとうございます」
アメリアは、頭にかぶっていたショールをとって肩にかけ、タオルで髪を拭く。滑らかな金髪の端から、ぽとりぽとりと水滴が落ちて室内着を更に濡らす。アウグストは勝手に手を伸ばして、彼女の肩からショールを取った。それに気付いて慌てて声をあげるアメリア。
「あっ、そ、それは……そのっ……ごめん、なさい。貴族には……似つかわしくないもの、でしょうが……」
「うん? 十分水を吸っているのだから、肩にかけては……」
「あっ、そういうことでしたか。わたし……」
恥ずかしい、とアメリアは更に頬を紅潮させる。アウグストは手に持ったタオルでショールを包みながら
「貴族には似つかわしくないか」
と呟いた。彼の言葉の意図がわからなかったものの、アメリアは少し沈んだ声音で答える。
「わたしには身の丈にあったもののように思えるのですが、きっと、普通の貴族は……」
「そうだな。確かにそうなんだろう。これか。リーゼと出かけて買って来たのは」
アウグストにはそんなことまで報告されているのだ、とアメリアは少しだけ驚いた。が、それへ「はい」と小さな声で返す。
「わたしにも、これが貴族にあうものだとは思えない」
「!」
「だが、そうではないものを身に着けることは、別段悪くないと思っている。人前では虚勢を張っても、家の中でなら構わないだろう。それに、君が自分で選んで買ったのだろう? 人と言うものは、何かを欲して、選んで、物を手に入れるものだ。わたしが知る限り、君がここでそう欲して手にしたものはこれが初めてだろう。ならば、それは尊重する。身の丈がどうこうという話ではない。君がこれを選んだのだから、そんなものは関係がない」
アメリアにはアウグストが言っていることがあまりよくわからない。わからないが、自分が初めて選んで買ったものを受け入れてくれたのだ、ということは理解を出来た。
「ありがとうございます……!」
彼がタオルからショールを出してアメリアに戻せば、彼女はふわりと微笑んでそれを受け取った。
「着替えは大丈夫か。濡れたものは脱いで、廊下に出しておけばいい。風邪をひく前に急げ」
「はい。ありがとうございました」
アウグストは自分が手にしていたタオルもアメリアの肩にかけ、そのまま私室に向かおうとする。
「おやすみなさいませ」
アメリアが柔らかい声を背に投げると、彼は足を一瞬止め「ああ。おやすみ」と返した。