身代わりで嫁いだお相手は女嫌いの商人貴族でした
 カミラとアメリアは双子として生まれた。だが、ヒルシュ子爵家には「双子は不吉」と言う言い伝えがあったため、生まれた直後に妹であるアメリアは殺されそうになった。ヒルシュ子爵家の家門は古くから続いており、子爵ではあるものの国で唯一無二と言われるほどの血統を持っていた。そして、それも「双子が生まれるたびに殺していたからこその繁栄」と言われていたのだが、実際どれだけ双子が生まれて、どれほど殺されてきたのかは定かではない。

 そんなアメリアが一命をとりとめたのは、当時ヒルシュ子爵家に滞在していた占い師のおかげだった。生まれた子供の名づけを占い師に任せる、というのもヒルシュ子爵家で当たり前のように大昔からの慣習で、生まれる一週間前からずっとその占い師はヒルシュ子爵家に滞在をしていた。そして、生まれた双子を見た占い師は、即座に「この子は殺してはなりません」と告げた。

「この子はいつか、この子爵家に財をもたらしてくれるでしょう。ですから、殺さずに生かしておくべきです」

「ですが、双子は縁起が悪いと……」

「同じように双子を育てる必要はありません。この子が財をもたらすその日まで生きていればそれで良いのです」

 占い師はそう言った。まったく酷い話だ。だが反面、その占いがなければ自分が殺されていたのだと思うと、そう占い師を否定できない。

 かくして、アメリアは「双子の妹だったから」という理由で、ヒルシュ子爵家の奥深くで、財をもたらすまでという期限付きで生き永らえることになった。12才になるまで、彼女の身の回りの世話をする乳母がいた。逆を言えば、それだけだった。部屋は一週間に一度掃除に入れば良い方で、ベッドのリネン類も月に一度しか交換はされなかった。ありがたいことに乳母はアメリアに対して優しかったので、毎日パンとスープの生活でも、甘いものを口にしなくとも、きちんとした教育を受けなくとも彼女は「そういうものだ」と思って生活をしていた。

 だが、12歳にもなれば、もう一人で生きられるだろう、と乳母が解雇され、それから彼女は侍女のような扱いで生活を始めることとなる。それには理由があった。ヒルシュ子爵家はあまり豊かではなかったため、乳母を雇う金を出し渋り、そして、侍女1人を雇う金を出し渋った。アメリアは2人分の経費を削減するのにちょうど良い存在となった。

 その上、屋敷に住み込みなのだから給金もいらないだろうと、何も彼女は与えられなかった。彼女は離れ担当の侍女になって、自分が住むエリアすべての掃除洗濯することになり、ほぼ、誰とも会わない生活を強いられた。

 時々執事や本館の侍女頭が離れのチェックに訪れた。その時に埃が窓枠についているなど、清潔感が失われていれば罰を与えられた。彼らのチェックは厳しかった。齢12才の彼女が合格点を貰えるわけもなく、何度も何度も掃除などのやり直しをさせられることになった。彼女が彼らのチェックを容易に通過できるようになったのは、ようやく14歳になった頃だった。

 それから、執事も侍女頭も来なくなった。代わりに週に何度か、本館の侍女がやってきて、ああだこうだとうるさく彼女に指図をした。彼女は「何故そんなことをするのか」と思いながらも黙っていたが、それは姉カミラからの指示だった。カミラはその侍女たちからアメリアの話を聞いては「本当にアメリアは可哀相ねぇ~」と楽しそうに笑っていた。アメリアが悲しい思いをすることは、カミラにとって一種の娯楽だったのだろう。

 そんなカミラは、そう豊かでもないはずのヒルシュ子爵家ででも贅沢を許されていた。彼女が美しくなれば美しくなるほど、求婚をする男性が増えるからだ。ヒルシュ子爵はなけなしの財を彼女に注ぎこみ、当然アメリアには何の金も使わなかった。

 カミラは溢れるばかりの美貌を持ち、ヒルシュ子爵の思惑通りあちらこちらから求婚をされていた。しかし、多くの男性と「婚前のお付き合い」をして金をむしり取っては斬り捨てていると、なんとなく本館からの噂がアメリアまで届いていた。求婚相手はみなそれなりの家柄の者のようだったが、ヒルシュ子爵は貪欲で、もっと良い相手を、と高望みをしていた。

 そして、ついにお眼鏡に叶うのではないかと思われるバルツァー侯爵からの求婚が来たというわけだ。だが、その「お眼鏡」はバルツァー侯爵が持つ財のみ。何故なのかはわからないが、その財は欲しいがカミラはやれない……そういうことなのだろう。
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