身代わりで嫁いだお相手は女嫌いの商人貴族でした
お披露目会は、立食形式のパーティーだった。多くの貴族と多くの商人たちが呼ばれて混在している。呼ばれた商人たちは、彼の仕事仲間の中でも一流の者たち。要するに貴族御用達の仕事をしていたり、貴族と同じほど財を持っていたり、そういった者たちばかり。彼らにとっては、このお披露目会はかっこうの「仕事の場」なのだ。
立食形式のパーティーとは言え、主役の2人には椅子が用意されており、会場のあちこちにも多くのソファが用意されている。それらは、疲れたら座れるようにという配慮でもあったが、商売の契約をするため用のものでもあった。
だが、唯一バルツァー侯爵家周辺の者たちの姿はない。アメリアがそっとディルクに尋ねると「ご血縁関係の方々は、また後々にお会いする場が設けられます」とのことだった。
「それにしても奥様はお美しい」
アウグストに挨拶をする人々がアメリアに声をかけても、すぐにアウグストが「彼女はヒルシュ子爵家の双子の妹でな。体が弱くて今まであまり外部に出て来なったんだ」と話を振ったので、ほとんどアメリアは会話に参加をしなくても済んだ。それを、申し訳ないと思いつつも、心底ありがたいと彼女は思う。
パーティーも後半に入った頃。アメリアは「あっ……」と小声をあげた。アウグストはそれに気付いて「どうした」と尋ねる。
「あの……父が……」
「ああ。ヒルシュ子爵は呼ばなかったのに、君の父親だからという理由で押しかけて来てな。わたしが対応を出来れば通さなかったが、門兵が困っていたようで仕方なく通した。奥方と共に来たようだが、君の姉は来なかったようだな」
見れば、会場の隅に両親の姿が。アメリアはどうしたらいいのかわからず、そちらを見ないように目を逸らす。アウグストは「やはり、あまり両親との仲はよくないのだろうか」と様子をうかがう。
「バルツァー侯爵、ちょっといいかね?」
すると、少し離れたところからアウグストに声がかかる。今日の主賓に「ちょっと」と声をかけて移動を促すその人物は、商人としてアウグストが独り立ちする前から彼に目をかけてくれていた恩人だ。肩書きとしてはアウグストの方が上であったが、商売の世界ではまた違うのだろう。アウグストは一瞬困惑の表情になり、それからアメリアの耳元で囁いた。
「……すぐ、戻る。君はここから離れずにいなさい。誰かに話しかけられても、その話は主人に、と言って流すこと」
「あっ、はい……」
「ディルク! 少し離れる。アメリアを頼んだ」
そう言って、アウグストは早足でそちらに向かう。彼がそんな風にずかずかと早足で歩く姿をアメリアは見たことがない。自分のために彼が急いでくれているのだ……そうアメリアは思って、少しだけ嬉しい。
だが、アウグストが離席をしたのを見計らい、彼女の元に近寄る影があった。それは、ヒルシュ子爵夫妻だ。
「アメリア。結婚おめでとう」
「あっ……は、はい、ありがとうございます……」
アメリアの横には執事であるディルクが立っている。彼をちらちらと横眼で見て、ヒルシュ子爵は「娘と親子水入らずで話をしたいのだが」と告げる。
「恐れ入りますが、アメリア様にはお疲れのご様子ですので、こちらにお座りいただいた状態でのお話にしていただけますと」
「すぐに終わる。アメリア、来なさい」
「あっ……!」
そう言うと強引にヒルシュ子爵はアメリアの手を引っ張った。貴族でありながら、まったく彼女を貴族だと思っていないような振る舞い。ディルクは声をあげようとしたが、お披露目会で問題を起こすことはよろしくない。そんな彼に、ヒルシュ子爵夫人が「あなたはこの城の執事なの?」と声をかけ、無理矢理彼の気を引いた。
立食形式のパーティーとは言え、主役の2人には椅子が用意されており、会場のあちこちにも多くのソファが用意されている。それらは、疲れたら座れるようにという配慮でもあったが、商売の契約をするため用のものでもあった。
だが、唯一バルツァー侯爵家周辺の者たちの姿はない。アメリアがそっとディルクに尋ねると「ご血縁関係の方々は、また後々にお会いする場が設けられます」とのことだった。
「それにしても奥様はお美しい」
アウグストに挨拶をする人々がアメリアに声をかけても、すぐにアウグストが「彼女はヒルシュ子爵家の双子の妹でな。体が弱くて今まであまり外部に出て来なったんだ」と話を振ったので、ほとんどアメリアは会話に参加をしなくても済んだ。それを、申し訳ないと思いつつも、心底ありがたいと彼女は思う。
パーティーも後半に入った頃。アメリアは「あっ……」と小声をあげた。アウグストはそれに気付いて「どうした」と尋ねる。
「あの……父が……」
「ああ。ヒルシュ子爵は呼ばなかったのに、君の父親だからという理由で押しかけて来てな。わたしが対応を出来れば通さなかったが、門兵が困っていたようで仕方なく通した。奥方と共に来たようだが、君の姉は来なかったようだな」
見れば、会場の隅に両親の姿が。アメリアはどうしたらいいのかわからず、そちらを見ないように目を逸らす。アウグストは「やはり、あまり両親との仲はよくないのだろうか」と様子をうかがう。
「バルツァー侯爵、ちょっといいかね?」
すると、少し離れたところからアウグストに声がかかる。今日の主賓に「ちょっと」と声をかけて移動を促すその人物は、商人としてアウグストが独り立ちする前から彼に目をかけてくれていた恩人だ。肩書きとしてはアウグストの方が上であったが、商売の世界ではまた違うのだろう。アウグストは一瞬困惑の表情になり、それからアメリアの耳元で囁いた。
「……すぐ、戻る。君はここから離れずにいなさい。誰かに話しかけられても、その話は主人に、と言って流すこと」
「あっ、はい……」
「ディルク! 少し離れる。アメリアを頼んだ」
そう言って、アウグストは早足でそちらに向かう。彼がそんな風にずかずかと早足で歩く姿をアメリアは見たことがない。自分のために彼が急いでくれているのだ……そうアメリアは思って、少しだけ嬉しい。
だが、アウグストが離席をしたのを見計らい、彼女の元に近寄る影があった。それは、ヒルシュ子爵夫妻だ。
「アメリア。結婚おめでとう」
「あっ……は、はい、ありがとうございます……」
アメリアの横には執事であるディルクが立っている。彼をちらちらと横眼で見て、ヒルシュ子爵は「娘と親子水入らずで話をしたいのだが」と告げる。
「恐れ入りますが、アメリア様にはお疲れのご様子ですので、こちらにお座りいただいた状態でのお話にしていただけますと」
「すぐに終わる。アメリア、来なさい」
「あっ……!」
そう言うと強引にヒルシュ子爵はアメリアの手を引っ張った。貴族でありながら、まったく彼女を貴族だと思っていないような振る舞い。ディルクは声をあげようとしたが、お披露目会で問題を起こすことはよろしくない。そんな彼に、ヒルシュ子爵夫人が「あなたはこの城の執事なの?」と声をかけ、無理矢理彼の気を引いた。