身代わりで嫁いだお相手は女嫌いの商人貴族でした
夢のようだ、とアメリアは思う。あのアウグストが自分の前に跪いて、そしてプロポーズをしている。一体何が起きているのだろうかと思う反面、これ以上の幸せが自分にあるのだろうかと心が満たされる感覚にアメリアは包まれた。
大体、何故彼はここにいるのだろう。どうして自分は彼とここで出会えたのか。それすらよくわかっていない。よくわかっていないけれど、自分の前で彼は自分が書いた手紙を読み、そして、その上で求婚をしてくれているのだ。
まるで、間違った出会いをしてしまった自分たちのやり直し行うように。それは、アメリアにとって、心から歓迎するべきことだった。彼は自分を金で買ったと言っていたが、それすらなかったように思える。だって、彼はこうやって自分が欲しい言葉を与えてくれている。
(カミラの代わりでもなく、わたしに。わたしの名を呼んで、そして、わたしがいいと言ってくださっている……)
そんなことが自分の人生であるなんて。アメリアは抑えきれない涙をぼろぼろと瞳から零す。頬を濡らし、あごを伝って落ちる涙。それを、アウグストは下から手を伸ばしてそっとぬぐってくれる。
(ああ、そんな風に、わたしに触れてくださるなんて)
恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。かあっと頬を紅潮させたアメリアは、それでも自分の精一杯で答える。
「わたし、わたしで、良いのでしょうか」
「君がいい」
「……嬉しい……嬉しいです……嬉しい……あなたが好き……好きです……」
その言葉を聞いたアウグストは、はっと瞳を大きく見開いた。
「そうだ。すまない。大事なことを言っていなかった」
一体何を言うのかと思えば、彼はそっとアメリアの片手を取った。細くて、骨ばった手の甲。それを彼女は恥ずかしいと思う。だが、彼はそっとその甲にキスをした。
「わたしも君が好きだ。そして、君に、こんなわたしを選んで欲しい」
ああ。
こんな、みすぼらしいヒルシュ子爵家の庭園なのに。自分は、今世界で一番幸せだ……。
アメリアはそう思って「はい」と答えた。他にうまい言葉は見つからなかったが、それでアウグストには十分だったらしく、彼は立ち上がるともう一度彼女を抱きしめた。その腕の中で、彼女は初めて自分から彼の服を握って、彼の胸に頬を寄せた。人というものは、こんな風に温かいものだったのだ……そう思って、彼女はまた泣いた。
「バルツァー侯爵家に帰ろう」
彼のその言葉に、泣きながらもはっきりと「はい」と頷いた。その声が、これまでの人生でなかったほど、あまりにもきっぱりと、あまりにもはっきりとした響きを伴っていて、アメリアは驚く。
(わたし……少しだけ、やっぱり変われた気がする)
そしてそれは、きっとアウグストもそうなのだ。彼の腕からするりと抜けると、アウグストは手を伸ばし、アメリアの手に指を絡めた。それに、彼女も軽くではあったが、ぎゅっと握り返したのだった。
大体、何故彼はここにいるのだろう。どうして自分は彼とここで出会えたのか。それすらよくわかっていない。よくわかっていないけれど、自分の前で彼は自分が書いた手紙を読み、そして、その上で求婚をしてくれているのだ。
まるで、間違った出会いをしてしまった自分たちのやり直し行うように。それは、アメリアにとって、心から歓迎するべきことだった。彼は自分を金で買ったと言っていたが、それすらなかったように思える。だって、彼はこうやって自分が欲しい言葉を与えてくれている。
(カミラの代わりでもなく、わたしに。わたしの名を呼んで、そして、わたしがいいと言ってくださっている……)
そんなことが自分の人生であるなんて。アメリアは抑えきれない涙をぼろぼろと瞳から零す。頬を濡らし、あごを伝って落ちる涙。それを、アウグストは下から手を伸ばしてそっとぬぐってくれる。
(ああ、そんな風に、わたしに触れてくださるなんて)
恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。かあっと頬を紅潮させたアメリアは、それでも自分の精一杯で答える。
「わたし、わたしで、良いのでしょうか」
「君がいい」
「……嬉しい……嬉しいです……嬉しい……あなたが好き……好きです……」
その言葉を聞いたアウグストは、はっと瞳を大きく見開いた。
「そうだ。すまない。大事なことを言っていなかった」
一体何を言うのかと思えば、彼はそっとアメリアの片手を取った。細くて、骨ばった手の甲。それを彼女は恥ずかしいと思う。だが、彼はそっとその甲にキスをした。
「わたしも君が好きだ。そして、君に、こんなわたしを選んで欲しい」
ああ。
こんな、みすぼらしいヒルシュ子爵家の庭園なのに。自分は、今世界で一番幸せだ……。
アメリアはそう思って「はい」と答えた。他にうまい言葉は見つからなかったが、それでアウグストには十分だったらしく、彼は立ち上がるともう一度彼女を抱きしめた。その腕の中で、彼女は初めて自分から彼の服を握って、彼の胸に頬を寄せた。人というものは、こんな風に温かいものだったのだ……そう思って、彼女はまた泣いた。
「バルツァー侯爵家に帰ろう」
彼のその言葉に、泣きながらもはっきりと「はい」と頷いた。その声が、これまでの人生でなかったほど、あまりにもきっぱりと、あまりにもはっきりとした響きを伴っていて、アメリアは驚く。
(わたし……少しだけ、やっぱり変われた気がする)
そしてそれは、きっとアウグストもそうなのだ。彼の腕からするりと抜けると、アウグストは手を伸ばし、アメリアの手に指を絡めた。それに、彼女も軽くではあったが、ぎゅっと握り返したのだった。