身代わりで嫁いだお相手は女嫌いの商人貴族でした
「双子の妹……? ヒルシュ子爵令嬢は、二人いたということか……?」
「はい。侯爵様からの求婚のお手紙はお名指しではなかったので……姉ではなく、妹のわたしが参りました。それではお困りでしょうか……」
「……はぁ……それは、本当か? 本当に?」
深いため息をつき、あからさまに嫌そうな表情を作るバルツァー侯爵。だが、アメリアは「ここで怯んではいけないわ」となんとか勇気を出して、はっきりと返事をする。
「はい。本当です」
「お前は、姉のように社交界でうまく交流が出来るか? 人脈はあるか?」
その言葉に俯くアメリア。
「……いえ……それは……ございません」
「それから、貴族としてのマナーなどはどうだ? わたしが欲しかったのは、貴族としての正当な血統と、それに即した振る舞いが出来る女性、そして、人脈だ。それが備わって、更に誰もが目を奪われるように美しいと聞いていたので、だったら金を積んでも良いと思ったのだ。お前はどうだ?」
貴族としてのマナー。それに関しては、自分もカミラもそこまでは変わらない気がした。何故なら、テーブルマナーなどはともかく、カミラは人としては「ちょっと奔放」が過ぎるからだ。が、それ以外に関しては完全に彼が言うのはカミラそのものだった。カミラは多くの男性の心を射止め、一時的にどんどん人脈を広げていった。勿論、その後にその男性を捨てるので、実際の人脈はと言うとまた別問題だったのだが……。
「残念ながら、どれもわたしには持ち合わせておりません……」
「ハッ! そうだろうな。見ればわかる」
バルツァー侯爵は両手を広げ、呆れたように声をあげた。そうか、彼はカミラの美貌だけで婚約を迫ったわけではないのだ……アメリアはそう思ったが、だからといって自分で良いわけはまったくない、いや、むしろない……そう思えば、胸の奥がずきんずきんと痛む。
(わかっていたことなのに、今更傷つくなんて。馬鹿ね、わたしは。見ればわかる。そうね、わたしはこんなに貧相ですもの……)
彼に欲されていないことは最初からわかっていた。でも、今傷ついているのはカミラと比較されたからではない。きっと、自分は無意識で「もしかしたら」と思っていたのだろう。
(なんて浅ましいことを。本当にわたしは……)
涙が湧き上がりそうになるのを、ぐっとこらえる。そんな彼女にバルツァー侯爵は冷たい声で告げた。
「ならば、帰って伝えろ。わたしが欲しいのはお前の姉だと。わかっていながらお前を差し出したのだろうな、お前の父親は。その腐った根性については、それ以上は問わないでやる。いいか。明日の朝になったら、この家を出てヒルシュ子爵家に戻ってすぐに姉を寄越せ」
「はい。侯爵様からの求婚のお手紙はお名指しではなかったので……姉ではなく、妹のわたしが参りました。それではお困りでしょうか……」
「……はぁ……それは、本当か? 本当に?」
深いため息をつき、あからさまに嫌そうな表情を作るバルツァー侯爵。だが、アメリアは「ここで怯んではいけないわ」となんとか勇気を出して、はっきりと返事をする。
「はい。本当です」
「お前は、姉のように社交界でうまく交流が出来るか? 人脈はあるか?」
その言葉に俯くアメリア。
「……いえ……それは……ございません」
「それから、貴族としてのマナーなどはどうだ? わたしが欲しかったのは、貴族としての正当な血統と、それに即した振る舞いが出来る女性、そして、人脈だ。それが備わって、更に誰もが目を奪われるように美しいと聞いていたので、だったら金を積んでも良いと思ったのだ。お前はどうだ?」
貴族としてのマナー。それに関しては、自分もカミラもそこまでは変わらない気がした。何故なら、テーブルマナーなどはともかく、カミラは人としては「ちょっと奔放」が過ぎるからだ。が、それ以外に関しては完全に彼が言うのはカミラそのものだった。カミラは多くの男性の心を射止め、一時的にどんどん人脈を広げていった。勿論、その後にその男性を捨てるので、実際の人脈はと言うとまた別問題だったのだが……。
「残念ながら、どれもわたしには持ち合わせておりません……」
「ハッ! そうだろうな。見ればわかる」
バルツァー侯爵は両手を広げ、呆れたように声をあげた。そうか、彼はカミラの美貌だけで婚約を迫ったわけではないのだ……アメリアはそう思ったが、だからといって自分で良いわけはまったくない、いや、むしろない……そう思えば、胸の奥がずきんずきんと痛む。
(わかっていたことなのに、今更傷つくなんて。馬鹿ね、わたしは。見ればわかる。そうね、わたしはこんなに貧相ですもの……)
彼に欲されていないことは最初からわかっていた。でも、今傷ついているのはカミラと比較されたからではない。きっと、自分は無意識で「もしかしたら」と思っていたのだろう。
(なんて浅ましいことを。本当にわたしは……)
涙が湧き上がりそうになるのを、ぐっとこらえる。そんな彼女にバルツァー侯爵は冷たい声で告げた。
「ならば、帰って伝えろ。わたしが欲しいのはお前の姉だと。わかっていながらお前を差し出したのだろうな、お前の父親は。その腐った根性については、それ以上は問わないでやる。いいか。明日の朝になったら、この家を出てヒルシュ子爵家に戻ってすぐに姉を寄越せ」