初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
コーデリア
「疲れた……」
窓辺に立って夕暮れの景色を眺めながら、ポツリとつぶやいた。
今日も一日、部屋にこもったまま過ぎてしまった。
ここは公爵家の長男の嫁の部屋としては狭くて地味な場所だ。西に向かって大きな窓があるだけいいとしよう。
「コーデリア様」
辺境伯の領地にいる頃からいっしょにいてくれるエラが、たしなめるように私の名を呼ぶ。
エラとは主人と侍女というより、友人みたいな関係だ。
「なにもしないのに、疲れてるってヘンよね」
「きっと気持ちがお疲れなんです。今夜は早めにお休みください」
まだ十五歳のエラが、みっつも年上の私を気遣ってくれる。
「ありがとう。エラだけが私の味方ね」
エラは恥ずかしそうに頬を染めた。
「夕食を運んでまいります」
誰が決めたのか知らないけど、朝昼晩の食事はこの部屋でひとりで食べることになっている。
でもほとんど部屋にこもったままだから、お腹が空かないし食欲もわかない。
ずっと屋敷の中にいるのに、気配を消して過ごすのはけっこう疲れるものだ。
私はたしかにここで生きているのに、いないものとして扱われてる。
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