初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合




***




そして今。
私はルーファス様の妻として、公爵邸で暮らしている。

幼い頃にもなんて綺麗な人だろうと思ったけど、大人になったルーファス様の美しさは半端なかった。
結婚式で会っただけだけど、天使のようだった面影を残したままの整ったお顔立ちで背もスラリと高い。

私という妻がいるとはいえ、社交界の人気はすさまじいらしい。

『らしい』というのは、私は社交界デビューすらしていないからだ。
ロールザイト家の人たちはどう思っているのか知らないけど、結婚する前も結婚してからもパーティーや茶会に出ていない。
公爵家の侍女たちが『噂ですが』と言いながら、わざわざ教えてくれる情報でしか社交界のことを知らないのだ。

どこそこのご令嬢がルーファス様に刺しゅう入りのハンカチをプレゼントしたとか、とある伯爵夫人が恋文を渡していたとか……これまでに何回聞かされたことか。
王都の貴族社会では、正式な妻がいても愛人を持つのはよくあることらしい。

結婚したのに揃って夜会になど出席したことがないから、とうとう夫婦仲がよろしくないとまで言われ始めている。
夫婦仲が悪いと噂される原因のひとつに、どうやらあの結婚式の日の私のひどいドレス姿もあるようだ。

『美しいルーファス様に相応しくない醜い妻』『政略結婚だから愛されなくて当然』

そんな話をわざわざ侍女たちが聞かせてくれる。

どうして私がこんな暮らしをしているかといえば、結婚式の夜に大きな事故が起こってしまったからだ。
それでルーファス様のお仕事がとても忙しくなってしまった。
原因はルーファス様にあるのに、ロールザイト家でも社交界でも悪者は私?






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