初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合




結婚式と披露パーティーが終わって、夜のいよいよ! という時刻。
私は先に夫婦の寝室へ行き、エラに手伝ってもらって湯あみをして厚ぼったい化粧をおとした。

『これが王都では普通なんでしょうか』

濃い化粧を落とすのに苦労しながらエラが呟いたっけ。
辺境伯領からひとりだけあてがわれた侍女が、エラだ。
敵対しているロールザイト家に行ってくれる侍女なんていなかったから、仲よしだったエラを侍女長が選んでくれたのだ。

着替え終わってエラが出ていってから、私はひとりでルーファス様を待っていた。

(私の顔を見て、ルーファス様はがっかりしないかしら……)

そっちの方が心配で、気もそぞろだった。
婚礼の時はこってりと白粉を塗られていたから、素顔の私とは別人みたいになっていたのだ。

(私の出自のことや、地味な素顔を見て失望されたらどうしよう)

私はルーファス様の妻にはふさわしくないのではと悩んでいた。
辺境伯家の血を引くとはいえ、産みの母の身分は低いし令嬢としての教育だって付け焼刃だ。
ロールザイト家の嫡男であるルーファス様なら、どんなご令嬢とだって結婚できたはずだ。

七歳での出会いが素敵な思い出だったから、余計に気が重かったのかもしれない。
美しい旦那様と田舎育ちの私が上手くいくとは思えなかったし、王命だから結婚を断ることができなかったはずだ。

それでも夫婦の誓いをした以上、少しでもルーファス様と仲よくなりたかった。
素顔のままの私を受け入れていただけたらと願っていたのだけど、そんなに都合よくいかなかった。
ルーファス様は、初夜に姿を見せなかったのだ。

新妻が先に眠るわけにもいかず、私は一睡もせずにルーファス様を待っていた。

結局、ひと晩中寝室で待ちぼうけ。
翌朝には目の下にクマを作っていたというのが、お粗末な初夜の思い出だ。





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