初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合



結婚式の夜に大きな事故が起こるなんて、誰が想像しただろう。

その工事はルーファス様がお仕えしている第二王子のアラン様肝いりの事業だった。
アラン様は王宮内の事務作業を効率よく進める方法を考えていて、あちこちに分散されていた部署をひとまとめにしようと計画された。ちょうど新しく機能的な建物を作っている最中だったのだ。

ところが工事を請け負った建設業者と役人との間で不適切な取引があり、工事費を誤魔化すために手抜き工事が行われた結果、建設中の建物が崩れてしまったのだ。

幸い夜中ということもあってケガ人は出なかったけど、事故の原因となった役人と悪徳業者との癒着が明るみに出て、世の中は大騒ぎになった。
ほかにも税金の無駄使いがあるのではと、平民たちが騒ぎだしたのだ。

なにしろ現ロールザイト公爵は財務大臣だ。
下っ端役人のやらかしたことまでは知らなかったとはいえ、ルーファス様とお義父様は汚職事件の真っただ中に立たされてしまった。

ルーファス様が寝室にこなかったのは、この事故のせいだった。
初夜に王宮から呼び出されてしまったのだ。
来られなかった理由はわかったけれど、もっとショックだったのは公爵家の対応だ。

あの夜、せめて誰かが連絡をくれていたら心細い思いをしなくてすんだだろう。
ルーファス様を待ちながら『私に触れたくないのかな』『顔を見たくないくらい嫌われているのかな』と、私は思いつめた。
涙をこらえて夜を明かした心の痛みは忘れられない。

あの夜が、私の新婚生活のすべてを物語っているといってもいい。
初夜だというのに誰も知らせてくれなかったということは、ルーファス様の妻として受け入れてもらえていない証明になった。



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