初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合




王命による結婚だったとはいえ、辺境伯家がないがしろにされた事実に変わりはない。
ルーファス様との白い結婚だって、医師の診察を受ければ証明できる。
離婚が成立する前に、こんな家から出ていっても罪にはならないはず。
じゃまな嫁が出ていってあげるんだから、喜ばれるかも。

(今度こそ、私は自由になる!)

辺境伯家や嫁ぎ先と、きっぱり縁を切る。そうしたらエラも私の侍女から解放してあげられる。
あれこれと屋敷を出る方法を考えていたら、いい情報が飛び込んできた。

現公爵様のお父様、つまりルーファス様のおじい様であるカルロス様がおケガをなさったという連絡が王都の屋敷に届いたのだ。

おじい様は私たちが結婚式を挙げる少し前から、公爵家の領地にある別荘で暮らしていらっしゃる。
領地といってもさすが公爵家というべきか、かなり王都に近いから馬車で二時間も走れば着くところだ。

おじい様は別荘でのんびりとお過ごしだったのに、森で転んで足腰を痛めたというのだ。

(チャンスだわ。家族として無視するわけにいかないもの)

私はこれ幸いと、おじい様の看病のために領地に行くことを口実に屋敷を出ようと決めた。
執事長に『お見舞いに行きたい』と申し出ると、ほいほい乗ってきた。
彼も困っていたようだ。
先代公爵がケガをしたというのに、お義父様とお義母様は無関心だし、ルーファス様はお忙しい。
王都の有名な医者を手配したらしいが、家族が誰も駆けつけないのは冷たすぎる。
『ロールザイト家は、先代をないがしろにしている』なんて言われかねない。
貴族の間ではちょっとしたことで家名を汚すことになったり、ライバルに足を引っ張られたりするのだ。




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