初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
嫁の私(形だけだけど)が領地に行くと申し出たら、執事長は涙を流さんばかりに喜んでくれた。
この一年、私が侍女たちから何をされていても黙認していたのにね。
ルーファス様には簡単にお手紙を書いた。
王宮に届けてもらうように侍女長に託したけど、ちゃんとお手元に届くかどうかはわからない。
だけど領地に行くことと、王宮に手紙を出したことは執事長の記録に残るはずだ。
(こでで堂々と屋敷から出られるわ)
公爵家の侍女たちは領地になんて行きたがらないだろうから、エラとふたりで姿を消すだけ。
(おじい様のお見舞いをすませたら、どこにだって行けるわ)
嫁ぐときに、自分のお小遣いを持ってきてよかった。
どこか遠くへ行こう。そして仕事を見つけよう。
小さい頃から侍女たちに混ざって働いていたから掃除や洗濯だってできる。
(大きな商家で侍女になってもいいし、ここに来てから多少はマナーを覚えたから、家庭教師だってできるかも)
自由になってひとりで暮らす夢を見ながら、私は荷造りを始めた。つい顔が緩んでしまうのは許して欲しい。