初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
ルーファス



***



妻を迎えてから一年が経とうというのに、仕事が忙しくて屋敷に帰れない。
アラン王子は気まぐれで、朝決めたことが夕方にはひっくりかえるなんてことがしょっちゅうあるからだ。
第二王子ゆえの我儘かもしれないが、おかげで側近としては気が抜けない毎日だ。

アラン王子の執務は僕をを中心に数人の補佐官でカバーしてるが、だんだん手に負えなくなってきた。
王子は頭が悪いというわけではないのだが、人の話を聞かないし、思い込みが激しすぎて面倒なタイプだ。
最近では優秀な第一王子、つまり兄である王太子の足をひっぱるのではと心配されるほどだ。

側近たちの心中を知ってか知らずか、アラン王子はプライベートでも周りを引っ掻き回している。
自分がいかにデキる男なのか見せたいのだろう。
婚約者のエレン・ブロンベルグ侯爵令嬢を執務室に呼び出すことも増えてきた。
お茶をするくらいなら気分転換と眼をつぶることもできたが、最近はエレン嬢の妹、アリア嬢まで出入りするようになっている。

「殿下、そろそろ……」

仕事が溜まるからと声はかけてみるが、おしゃべりに花を咲かせていて無視される。
公爵家の跡取りの自分でも、王子に文句を言える立場ではない。

「ルーファス、お前も休憩してはどうだ」

アリア嬢の香水の匂いがきつくて辟易しているというのに、同じテーブルで茶を飲むのはなにかの罰としか思えない。

「ありがとうございます。でも仕事中ですので、申し訳ございません」

なるべく表情を変えないようにして答えるが、アリア嬢からの熱い視線を感じる。
僕が既婚者だと知っているだろうに、高位貴族の令嬢とは思えないくらい遠慮のない眼差しだ。

(困ったことだ……)

これは妻を放って仕事ばかりしていることへの罰だろうか。

四歳年下の妻は、マチス辺境伯家から嫁いできたコーデリアだ。
愛しい妻に会いたいのに会えない日々。
うっぷんがたまって、気持ちが徐々に荒んでいくのを自分でも止められなくなってきた。




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