初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合


中でも女の子はバラ園が気に入ったのか、足取りも軽くなってきた。
貴族の令嬢にしては元気いっぱいの歩き方をするので驚いたくらいだ。

しばらくすると、ふいに少女の足が止まった。
あんなに楽しそうだったのに、どこか不安げだ。

『ここにいたらきっとご両親が見つけてくれるから』と声をかけてみる。

両親と離れて不安になっているのだろう。
かつて僕に乳母がしてくれたように、つい頭を軽く撫でてしまった。
そうせずにはいられないくらい、愛らしい少女だったのだ。
やがて王宮の使用人が子どもだけでウロウロしているのに気がついて、声をかけてくれた。

『この子が迷子のようなんだ。どこのご令嬢か調べてもらえる?』
『え? 私、だ、大丈夫です』

侍女が待っているからと、控室に向かって一目散に走り出してしまった。

あとから家令に調べさせたら、武勇に優れた辺境伯家のコーデリア嬢だとわかった。
王都の貴族にはない豊かな表情、僕をまっすぐに見つめてくる、曇りのない瞳。

(コーデリア)

その名をずっと忘れることはなかった。








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