初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合


ルーファスが初めて出会った日のコーデリアは、愛らしい少女だった。
だから現在はどんな令嬢に育っているのか、なにも知らないまま婚礼の日を迎えたのだ。

(ようやく会える!)

ルーファスの胸は期待で膨らむ一方だった。

祭壇に立って自分の方に向かって歩んでくる彼女を迎えたが、目に入るのはヒラヒラしたウエディングドレスのみ。
体型がわからないくらい、フリルだかレースだかに覆われていた。
おまけにベールは前にも後にも長くて、誓いの言葉がくぐもって聞こえたほどだ。

やっとベールをあげてキスをしようとしたら、人形のような花嫁がいた。
絵画のように描かれているといえばいいのか、真っ白な肌にくっきりと線が引かれた目元、紅で真っ赤に塗られた唇。
幼い頃の面影はまったくなくて、ルーファスは戸惑った。

(野の花のような女の子だったのに)

あまりの変わりように残念な気分になったが、これから毎日を過ごす妻なのだ。
少しでも歩み寄っていこうと心に誓った。

しかしルーファスの願いもむなしく、その夜にすべてが変わってしまった。
アラン王子が熱心に進めていた事業が、とん挫しそうになったのだ。

莫大な費用をかけての工事だったのに、一部の役人が入札時に業者から賄賂を受け取っていた。
おまけに費用を横流ししたためにずさんな工事になり、大事故が起こってしまった。
ルーファスたち第二王子の側近は大慌てだ。

犯人探しと同時に、なんとか工事を軌道に乗せなければならない。
ただでさえわがままだと噂されている第二王子の評判を下げるわけにはいかないのだ。

ルーファスの暮らしは一変した。
妻を迎えたばかりだというのに、不眠不休で働かなくてはいけない。
コーデリアに申し訳なく思いながらも、体力も気力もどんどん削られていく。

新婚の妻のことが気がかりだった。

『自分が仕事に行っている間、妻が安心して暮らせるようにしてほしい
ルーファスは姉に頼るしかなかった。

(この案件さえ片付けば、コーデリアと夫婦として過ごす時間が持てる)

もう少ししたら、もう少しがんばったら……そう信じて仕事に全力を注いだ。

そんなこんなで、気がつけば一年が経とうとしていた。
まさか妻に触れないまま過ごすことになろうとは、ルーファスだって想定していなかった。








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