初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
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その日、僕はウキウキと屋敷に帰った。
仕事が早く終わったので、久しぶりに明るい時間に帰ってこれたのだ。
侍女長も驚いて迎えてくれた。
「お早いお帰りでございますね」
「コーデリアは部屋かい?」
玄関から入るなり尋ねると、周りにいる侍女たちがキョトンとした顔をしてざわついた。
聞こえなったのかと、再び「コーデリアは?」と少し大きな声を出すと、ますます侍女たちはヒソヒソと話しだす。
おまけに侍女長はわなわなと震え出した。
なんとなく屋敷の空気が悪いなと感じていたら、侍女長がやっと口を開いた。
「若奥様はずっと領地にいらっしゃいます」
「は?」
使用人たちの前だというのに、思わず無様な声が出てしまった。
(妻が領地へ行ったなんて聞いていない!)
背中に嫌な汗が流れるのを感じる。
「ハイドは執務室か?」
これ以上、使用人たちに醜態をさらす前に執事長から話しを聞くことにする。
足早に執事長の部屋まで行って、ドアを開けるなり問いただす。
「……妻が領地に行ったのはいつだ?」
目をパチパチとしばたたかせた執事長のハイドに、思いっきり冷たい視線を投げかけた。
あえて妻という言葉を大きくはっきりと口にする。
「先代様がおケガをされた知らせを受けて、まもない頃かと記憶しております」