初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合



***



その日、僕はウキウキと屋敷に帰った。
仕事が早く終わったので、久しぶりに明るい時間に帰ってこれたのだ。
侍女長も驚いて迎えてくれた。

「お早いお帰りでございますね」

「コーデリアは部屋かい?」

玄関から入るなり尋ねると、周りにいる侍女たちがキョトンとした顔をしてざわついた。

聞こえなったのかと、再び「コーデリアは?」と少し大きな声を出すと、ますます侍女たちはヒソヒソと話しだす。
おまけに侍女長はわなわなと震え出した。

なんとなく屋敷の空気が悪いなと感じていたら、侍女長がやっと口を開いた。

「若奥様はずっと領地にいらっしゃいます」

「は?」

使用人たちの前だというのに、思わず無様な声が出てしまった。

(妻が領地へ行ったなんて聞いていない!)

背中に嫌な汗が流れるのを感じる。

「ハイドは執務室か?」

これ以上、使用人たちに醜態をさらす前に執事長から話しを聞くことにする。

足早に執事長の部屋まで行って、ドアを開けるなり問いただす。

「……妻が領地に行ったのはいつだ?」

目をパチパチとしばたたかせた執事長のハイドに、思いっきり冷たい視線を投げかけた。
あえて妻という言葉を大きくはっきりと口にする。

「先代様がおケガをされた知らせを受けて、まもない頃かと記憶しております」




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