初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合


ハイドは落ち着いていて、淡々と答えてくる。余計にイラついてきた。

「おじい様がケガ?」

祖父がケガをしていたなんて、初耳だ。

「若奥様から、自分がお見舞いに行くとのお申し出がございまして」

重大なことだが、僕に報告がなかったというのに執事長はケロッとした顔をしている。

「そういえば若旦那様には、若奥様がお手紙を出されておられました」

そんなもの届いていないし、記憶にもない。

「手紙など受け取っていない」
「行き違いでございましょうか」

執事長は屋敷から出された手紙や品物を記録した帳簿をペラペラとめくっていたが、無表情のまま首をかしげている。

「早く調べろ!」

ルーファスが怒鳴ると、執事長は頭を下げて執務室を出ていった。

(手紙が王宮に届かなかった?)

少し冷静になってくると、この屋敷の雰囲気がおかしいことに気がついた。

新妻を娶ったというのに、華やいだ雰囲気が感じられない邸内。
コーデリアの趣味はわからないが、家具も内装も活けている花まで従来となにひとつ変わっていない。

(コーデリアの好みのものは? 好きな花とか、好きな家具は?)

この一年、なにも見えていなかったのではないか。
不安な気持ちを抱えたまま、僕の部屋とつながっている妻の部屋へ自然と足が向かう。
その部屋へは、実は一度も足を踏み入れたことがなかった。

留守とはいえ、ノックをしようとドアの前に立つと中が慌しい雰囲気だ。
不審に思って大きくドアを開け放つと、部屋の中には数人の侍女たちがいた。

「なにをしている!」

主のいない部屋に使用人がいるのはおかしなことだ。





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