初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
「も、申し訳ございません」
「お部屋を片付けようと思いまして」
よく見れば、姉のミランダの侍女だった者たちだ。
「片付け?」
ひと月前からいないはずのコーデリアの部屋を、今になってとは奇妙な話だ。
夕刻とはいえ、まだ十分明るい時間だ。
ゆっくりと部屋の中を見渡すと、奇妙なことに気がついた。
(物がない……)
机と椅子と、ソファー。かろうじて小さな本棚。
辺境伯令嬢を妻に迎えるとあって、見え張っりな母がそれなりに家具を整えていたはずだ。
衣裳部屋をのぞくと、もっと悲惨な状況だった。
趣味の悪いごてごてしたドレス。
誰が見ても、安物としか思えない。こんな物をマチス家が嫁入りに持たせるはずがない。
そういえばウエディングドレスもコーデリアにちっとも似合っていなかった。
あれを用意したのは、姉だと思い出した。
「……どういうことだ?」
侍女たちはガタガタと震えている。
「どういうことだと聞いている!」
「ひっ」
「お、お許しくださいませ!」
へたり込んでしまった侍女のうち、やっとひとりが口を開いた。
「私どもは、ミランダ様のご命令通りにしたまででございます」
「姉の? 命令?」