初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
「は、はい」
侍女たちは泣き出しそうな顔をしている。
いつもは使用人を叱ったことがない僕が、今は顔色を変えているからだろう。
「なにを命令されたんだ」
「それは……」
ポツポツと話す内容は、信じがたいものだった。
ロールザイト公爵家の令嬢として育ったはずのミランダが考えたにしては、幼稚な内容ばかりだ。
コーデリアにごてごてと化粧をしたり、安物のドレスを着せたりしたこと。
しょっちゅう遊びに来ては、お茶会と称して小言や嫌味ばかりを言っていたこと。
果ては、部屋の内装まで変えてしまったらしい。
「田舎者に、豪奢な部屋は必要ないだろうとおっしゃって」
母が用意していた家具は取り払い、納戸にあった古ぼけたものだけを置いていたようだ。
ここを見られたらまずいと思って、侍女たちは慌てて元に戻そうとしていたらしい。
「嫁いできてからずっと、私の妻にそんなつまらぬことをしていたというのか」
あまりにも腹が立って、気分が悪くなってきた。
「も、申し訳ございません!」
今さら侍女たちが泣いて詫びても、ここにコーデリアはいない。
仕事が忙しいからと姉のミランダにコーデリアの世話を頼んだのは、他ならない自分なのだ。
(姉上を信じていたのに)
後悔してもしきれない、砂をかむような後味の悪さだ。
「姉の嫁ぎ先にはロールザイト家から正式に抗議する。しばらく姉を屋敷に入れないように」
ドアの前で控えていた侍女長に命令する。
彼女も片棒を担いでいたかもしれないが、今はそれを追及している場合ではない。