初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
「ハイド!」
侍女たちの処分は後でもできる。
コーデリアのもとに一刻でも早く行きたかった。
「お呼びでございましょうか」
「手紙の件はわかったか」
「それが……」
口ごもりながら、手紙は侍女長が捨ててしまったらしいと言う。
やはり侍女長もミランダの指示で、コーデリアと僕を引き離そうとしていたようだ。
女性のことは女性の方がよいだろうと、侍女長を信じて任せていた自分の過ちだと執事長は深く頭を下げた。
「コーデリアへの無礼を働いた者には、すべて暇を出せ」
「はっ」
「コーデリアは、自分から領地に行くと言ったんだな」
「はい。それは間違いありません。若奥様がご自分が看病に行くとおおせになりましたので、お願いいたしました」
きっとこんな屋敷にいるくらいなら、領地の方がましだと考えたのだろう。
妻にそうさせてしまうなんて罪悪感でいっぱいだ。
「そして、こちらは私が預かっておりました書類でございます」
執事長が厳重に封をされた袋を差し出した。
「これをコーデリアが?」
「はい。領地にお出かけになる前に、なにかあったらルーファス様にお渡しするようにと」
もしかしたら結婚してから屋敷のものにされたことを僕に伝えるために書き記したものだろうか。
そう思いながら封を開いてみると、王宮に提出するための書類だった。
「これは……」
もはや絶句するしかなかった。
それは離婚のために必要な書類で、コーデリアはすでにサインしている。
つまり、別れる覚悟を決めて領地に向かったということだ。
「侍女や護衛はどれほど付けたのだ?」
「身軽がいいからと、侍女ひとりをお連れになりました」
「侍女ひとりだけ?」
侯爵家の若奥様が、たったひとりの侍女を供に出かけたという事実が恐ろしい。
いくらロールザイト家の領地が王都のすぐ近くとはいえ、道中が安全だとは言い切れないのだ。