初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合



それに私は辺境伯家の次女とはいえ、妾腹だ。
母は屋敷に行儀見習いに上がった男爵家の三女だった。
少しばかり器量がよかったので、辺境伯の目にとまったらしい。
でも私を産んですぐに亡くなったため、正式な側室として認められてはいない。

愛妾を亡くした原因となってしまった私を、父は見るのも嫌だったんだろう。
私は侍女たちが交代で面倒をみてくれたおかげで、なんとか育つことができたようなものだ。

父は忙しく領内を見回っているか、王都に行っているかでほとんど屋敷にいない。
いつの間にか父は、私と言う存在を忘れてしまったのだろう。
小さなころから侍女たちとばかり過ごしてきた私は、自然と使用人の真似事をするようになっていた。
侍女のお仕着せを着て働いているうち、誰も私のことを辺境伯令嬢だとは思わなくなったみたい。

エラと仲よくなったのも、お互いに下っぱの雑用係だったからだ。
もちろんエラは私が辺境伯の娘だなんて知らなかったはず。
事情を知ってもエラは態度を変えなかった。掃除や洗濯に追われる仲間として接してくれたんだ。

私は教育もロクに受けていないし、見た目だって手入れしていない。
掃除や洗濯していたおかげで肌は日焼けして、顔なんかそばかすがチラホラ目立つようになってしまった。
髪の毛は乾燥してパサついているから、まるで実った小麦みたいな状態だ。
顔立ちだけは厳つい父に似なかったのが幸いだけど、かといって美人というほどでもない。




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