初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
リア?




ひと月前、コーデリアがロールザイト家の領地に着いたところ。



◇◇◇



先代公爵であるカルロスおじい様が養生しているのは、領地にある屋敷から少し離れた別邸だ。
私はおじい様を見舞ったらすぐにロールザイト家から出る予定なので、目立たない地味な服装にしている。

「若奥様のために馬車の準備もしないなんて」
「いいのよ、私がいらないって言ったの」

エラは怒っていたが、今回のことは家出の第一歩だ。
この先の暮らしを考えると、乗合馬車というものを経験してみた方がよさそうだと思ったのだ。
質素な服装の私とエラのふたりなら、どこかの商人の妻と小間使いに見えるだろう。

乗合馬車を降りてからは徒歩で小高い丘を登り、糸杉の木が目印になっている小さな館の門の前に立つ。
ここが侯爵領にある別荘のようだ。

(貴族の屋敷というより、商家風なのね)

王都にあるロールザイト家の屋敷は華やかだし、とても豪勢なものだ。
それに比べたら地味だし、なんだか湿っぽい空気を感じる。

(おじい様はおばあ様を亡くした悲しみで領地に引きこもったと聞いていたけど、これほどとは……)

何度かベルを鳴らしたら、ようやく古ぼけた身なりの老人が現れた。

「どちら様でしょう」

「お見舞いに参りました。コーデリアです。」

「はあ?」

「コーデリア・ロールザイトです」
「はあ?」

老齢の男性は耳が遠いのか、何度も聞き返してくる。
いつもとは違って、すっぴんに平民が着るようなワンピース姿ではルーファス様の妻と言っても信じてもらえそうにない。

「ですから、お見舞いに」

「ああ! 頼んでいた介護人ですね!」

なんだか話が違っているけれど、ようやく屋敷の中に入れてくれた。







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