初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合


「おーい、手伝いが来たぞ~」

「はいはい、待ってくださいよ」

奥から老女がトテットテッと杖を突きながら歩いてきた。
着ているものからして侍女だろうけど、なんだか貴族の屋敷に勤めている雰囲気ではない。
近所の農家のおかみさんといったところかな。

「助かりましたよ、お嬢さん。私らだけでは回らなくて」

年老いた使用人はロンと名乗り、この屋敷の庭師だという。
老女は彼の妻のサリーで、腰を痛めているらしい。
先代様は昔馴染の使用人たちと暮らしていたが、だんだん皆が年老いて、とうとうふたりだけになっていた。

(使用人を新しく雇わなかったのね)

その状態で先代様がおケガをなさったから、さぞ大変だっただろう。
介護やら屋敷の掃除、洗濯、食事の支度と用事は山積みなのに手が足りない。

「大変ですね」

「あんたたちが来てくれて大助かりだ」
「ふたりとも、頼みますよ」

この状態では、介護人ではないと訂正することも、断ることもできない。



< 32 / 58 >

この作品をシェア

pagetop