初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
私は仕方なくエラに目配せした。
エラも、この状況ではすぐに立ち去れないと覚悟を決めてくれたらしい。
私たちはロンに案内されて、薬品の匂いがする部屋のドアをノックして声をかけた。
「失礼いたします」
何度か声をかけても返事がないから、ロンが勝手にドアを開けた。
(なにこれ?)
午前中だというのに部屋の中は薄暗い。
食べ物やら薬やらの匂いを誤魔化すためか香のようなものが焚かれているが、混ざってしまって臭い。
中央に置かれたベッドに寝かされているのが先代様だろう。
「起きていらっしゃいますか?」
声をかけると、こちらに向いて横たわったままの老人が視線だけを上げた。
ハッとするぐらい顔色が悪い。
それよりもどんよりとした目元に驚いた。
起きているのに眠っている……いや、生きているのに死んでいるといった方がいいような表情だ。
(これは思った以上に容態は悪そうね)
おそらくサリーが腰を痛めてから、身体を拭くとか着替えるとかの世話を受けていないのだろう。
私の後ろに隠れるようにしていたエラが、ごくんと唾をのみ込むのがわかった。