初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
私が育った辺境伯家では、武力衝突や日々の訓練でケガをする人が多い。
だから侍女の仕事には、ケガ人や病人の看護が含まれている。
(傷ついた兵士の治療はしてきたけど、これは……)
こんな状況の先代様を放っておくことは、人としてできないことだ。
「ご安心くださいませ。私たちが看病いたします」
そう言ってから、しまったと思ったがもう遅い。
(今日中にはここを出ていくつもりだったのに)
一度口に出して言ってしまったものは仕方がない。
私は覚悟を決めた。
どうせなら介護人として、ここでしばらく暮らすことにしよう。
この屋敷の人はコーデリアの顔も知らないのだし、なんとでも誤魔化せるだろう。
「先代様の介護させていただきます、リアと申します」
「……リア様の助手のエラと申します」
いつもながら、エラの機転には助かる。介護人だと改めて納得させようとしてくれる。
私たちのことがわかったのかわからないのか、先代様はボーとこちらを見ているだけだけど。
「まず、お身体を清めなくては。それから掃除と洗濯もいたします」
大量のお湯が必要だと気がついたのか、ロンが部屋から出ていった。
サリーは安堵した表情で肘掛椅子に座り込んだ。よほど腰が痛かったのだろう。
(まずカーテンを開けて、空気の入れ替えをしよう。それからお身体の状態を確認しなければ)
やることが次から次に頭の中に浮かんでくる。
服の袖をたくし上げ、力いっぱいカーテンを引っ張った。
(さっそく予定が狂っちゃった)
それでも誰かの役に立てるならまあいいかと、私は作業に取り掛かった。