初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
私たちが領地にやってきてひと月が経つ頃には、流動食から固形食に変わっていた。
「よかったですねえ、お元気になられて」
エラも嬉しそうだ。
幼い頃に亡くした祖父を思い出したのか、一生懸命にカルロス様のお世話をしていたのだ。
湿布が効いたのか背中の調子もよさそうで、杖をついて歩けるくらいには回復している。
「もうすぐ、杖も必要なくなりますわ」
私が声をかけると、カルロス様は「ああ」と頷いた。
前公爵様は口数の少ない方だ。
声のトーンが違うことで肯定か否定なのか判断しないと、いつもなんでも『ああ』なのだ。
私やエラにも慣れてくださったのか、表情は穏やかだ。
心なしかお顔の色もよくなってきた。
(よかった。お元気になられて)
ロンやサリーも喜んでくれるし、手伝いに来てくれた近所のおかみさんたちも嬉しそうだ。
先代とはいえ領主さまだったんだから、皆さん心配していたんだろう。
皆でホッとしていたら、ある日とんでもない人が領地にやってきた。