初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合



***



「君、この屋敷の者か?」
「は?」

まだ朝の早い時間だ。
庭にしゃがみ込んで薬草の手入れをしていたら、若い男性が声をかけてきた。
こんな時間に誰だろうと麦わら帽子を少し上げてみれば、旦那様ではないか。

(え? どうしてこちらに?)

突然のことに、ただ茫然と見上げてしまう。
けれどルーファス様は、そんな私を見て苛立ったようだ。

「ベルを鳴らしても返事がないから庭に回ってきたんだ。急いで誰かに取り次いでくれ」

きっとロンもサリーも耳が遠いから、気がつかなかったんだ。

「は、はい。こちらへどうぞ」

私が誰だかわかっていないみたいだから、名乗る必要はなさそうだ。
とりあえず屋敷に案内しなくてはと、少々土で汚れたエプロンドレスをはたきながら立ち上がる。



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