初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
正妻の子の兄や姉は大切に育てられていたけど、私なんてすべてが貴族の令嬢とはいえないくらい酷いものだ。
侍女長が最低限のマナーを、執事長がひととおり文字や計算を教えてくれたけど、平民よりましな程度の教養しかない。
そんな私に王命で結婚話が回ってくるとは、辺境伯家の誰も思っていなかったはずだ。
一応、私は生まれた時に『マチス家次女』と届け出られている。
だから戸籍上ではマチス家には娘がふたりいることになっていたのだ。
姉はすでに嫁いでいたから『マチス家の令嬢とロールザイト家の令息を結婚させる』と聞いても、誰もピンとこなかったそうだ。
大慌てしたのは執事長と侍女長くらいだろう。
ふたりから聞いて、やっと父も私のことを思いだしたのだ。
父に呼ばれたのは、屋敷の掃除をしている最中だった。
使用人と同じ服を着ている私を見て、父は大きく目を見開いた。
これまで私がどんな暮らしをしてきたのか、やっと理解したらしい。
それなのに『お前はロールザイト家に嫁げ』と言ったのだ。
侍女長たちに教えてもらったくらいの教養しかない私では、公爵家の嫁なんて務まるはずないのにね。
私は貴族として生きていくつもりなんてなかったけど、マチス家から出ていけるのならありがたい。
それに、もしかしたら嫁ぎ先で幸せになれるかもしれないと希望の光が見えた気がしたし。
でも甘かった。そんな期待はすぐに砕け散った。
辺境伯領から王都までは遠いということもあって、結婚式の準備はロールザイト家に一任することになった。
あちら様に丸投げだから、私は結婚式の衣装や新居のことなど、なにも知らないまま結婚式の日を迎えた。