初恋は実らぬものというけれど……ある辺境伯令嬢の場合
私がルーファス様のそばに控えていると、時おりカルロス様が顔をのぞかせる。
「カルロス様」
ここにきた頃、私は大旦那様とお呼びした。
ひと月もお世話するうちに、名前で呼ぶようにと言われたのだ。
「世話になるな、リア」
「いえ、まだお熱が下がりません。かなり心身ともに弱っておいでです」
「やはりな」
おじいさまは渋い顔をした。
「あのバカ王子にこの一年振り回されていたんだろう」
幼いころから真面目で几帳面だったルーファス様は、与えられた仕事を完璧にこなそうとするタイプだったらしい。
第二王子の側近に選ばれた時、王家に忠誠を誓っているから余計に頑張りすぎたのだろう。
「私はルーファスの繊細さが気になっていた。息子夫婦は子どもたちを使用人や家庭教師に任せっきりで、愛情を注いていたとは思えない」
彼が凡庸だったらよかったのに、優秀さが王家の目にとまってしまったとカルロス様は項垂れた。
「だから王子の側近に選ばれるし、王命で妻を迎えることになってしまった」
「はあ」
すみません、相手は私なんです。
お役にたてないまま、離婚しようとしています。
とは、口にできないから、私はただただカルロス様の話しを聞いているしかできない。
「すまないが、面倒をみてやってくれ」
「とんでもございません、精一杯、お世話させていただきます」
結婚式を挙げただけの妻とはいえ、少しはお役にたたせてください。
そう思いながら、わたしはカルロス様、いや本来ならおじい様と呼ぶべき方に頭を下げた。